大阪城デート
大阪城公園は柔らかい春の陽気に包まれていた。
ぶおーっと強めの風が吹き、少し前を歩く美里(みさと)さんの長い髪がなびいた。ひらひらと舞う彼女の髪からふわりと甘い香りが漂ってくる。俺の心臓がトクンと跳ねた。
「山田くん、今日は誘ってくれてありがとうね」
くるりと振り返り、あどけない笑顔を向けてくる美里さん。プライベートので会う美里さんは職場で遭遇するより少し砕けた印象だ。端正な顔立ちでくしゃりと笑うこの年上女性に、俺は騙されているのかもしれない。
「山田くん?」
俺がぼーっとしていると、美里さんは心配したのかふらりと覗き込んでくる。先ほどまでの愛嬌溢れる笑顔から、どうしたの?と不思議そうな表情に変わる。目はパチリと開き上目遣い。距離が近づいて強くなる甘い香り。感じる吐息と熱。クラクラしそうな甘さだ。これは危険すぎる。もはや、男を恋に落として心臓を破壊する新手の兵器だ。
「すみません。美里さんがべっぴんさんすぎて見惚れてました」
「ありがとう。山田くん、モテるでしょ?」
まずい。いきなり距離を詰めすぎたか。このモテるでしょ? はどういう意味だろう。女遊びすんなそんな安い褒めなら私はなびかないぞの非難か、思わせぶりな態度で弄んでいるのか、社交辞令か、脈ありサインか。薄く微笑んだ彼女の表情からは読み取ることができない。これだから小悪魔先輩は怖い。
「僕なんか全然ですよ。ところで次どこ行きます?」
当たり障りのない回答をして、重要度の高い話へと舵を取る。よし、うまい撤退だ。このあたりの駆け引きの巧さが ”逃げのナオト”と呼ばれる所以である。
「うーん、山田くんはどこが良いと思う?」
微笑みはそのままに、 いたずらっぽい目で答える美里さん。自分の言動が人を殺めかねないことを彼女は自覚しているんだろうか。
「そうですね。この辺やと京橋で飲むか、鶴橋で焼肉食べるか、中央公会堂へ行くかですかね」
「その中だと私は京橋がいいかな。あっ、でも明日仕事早いから飲みは無しでお願いね」
「わかりました。何軒かいいご飯屋さん知ってるんでそこ行きましょう」
「はーい。京橋あまり行ったことないから楽しみかも」
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