33話 新鮮な体験②

 食事を終えて教室に戻り、作業を再開する。

 昨日まで普通に教室として授業を受けていた場所をお化け屋敷に変えるわけだから、担任の先生を含めクラス全員が長丁場となることを覚悟していた。

 けれど、大方の予想をいい意味で裏切り、日没を迎えずして完成を迎える。

 お化け役の衣装や小道具は大きなバッグに入れて分かりやすい場所に置いてあるし、本番で流す予定の和風ホラーテイストな音楽の確認も済ませた。

 あとは明日になるのを待つばかり。

 もともと帰宅予定だったクラスメイトたちは、各々のタイミングで教室を去っていく。

 談笑の声も落ち着き始めて宿泊組だけが残った頃、先生による点呼の後にみんなでそろって空き教室――本日の宿泊場所へと移動する。

 目的地に到着すると、宿泊の申請をしていた人数分の布団が積まれていた。

 ちょっとした非日常感を覚えつつ、手分けして布団を床に敷いていく。


「学校に泊まるなんて初めてだから、なんかドキドキしちゃうな~」


「うん、これも一つのイベントって感じだよね」


 さりげなく、かつ当然のごとく萌恵ちゃんの隣を確保する私。

 エッチなことはさすがに自重するけど、布団越しに触り合ったり手をつないだりはするかもしれない。

 いや、バレないようにこっそりエッチなことをするのも……なんて妄想を膨らませていると、近くから興味深い会話が聞こえてきた。


「お腹空いたー。そう言えば、晩ごはんってどうすればいいんだろ」


「今日は十時ぐらいまで学食開けてくれてるらしいよ」


 晩ごはんという言葉を耳にした瞬間、思い出したかのように体が空腹を訴える。

 学校に泊まるのはもちろん、学校で夕食を取るのも滅多にない体験だ。

 なにを食べるか考えながら、萌恵ちゃんたちと共に廊下へ出る。

 学校に泊まるのは私たちのクラスだけではなく、道中で別クラスの生徒や上級生と何度もすれ違う。

 出し物に教室を使わないクラスは、私たちとは逆で自分の教室に泊まっているようだ。

 いまなお懸命に準備を進めているところがほとんどなので、邪魔をしないよう速やかに学食へ移動する。


「萌恵ちゃんはなに食べる?」


「海鮮丼!」


 数時間前に足を運んだばかりだけど、夜に訪れるのは初めてだ。

 見知った場所であれ夜間の移動には少なからず恐怖を伴うものの、今日ばかりは言い知れぬ高揚感がそれを打ち消してくれている。

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