34話 新鮮な体験③

 準備を無事に終え、あとは明日になるのを待つだけ。

 当日における私と萌恵ちゃんの仕事は校内を練り歩いての宣伝及び案内係。

 予行練習では、お客さん役として完成度の高さを充分に味わった。

 今日はそれなりに動き回ったのに、期待と高揚感が募り、消灯時間を過ぎても全然眠くならない。

 それは他のみんなも同じで、廊下に漏れないようボリュームを抑えつつ賑やかに談笑している。

 私は布団の中でさりげなく萌恵ちゃんの手を触り、撫でたり握ったりと密かなスキンシップを楽しむ。

 普段は同じ布団で身を寄せ合って眠っているので、こうして別々の布団で寝るというのは久しぶりな気がする。


「真菜~、そっち行ってもいい?」


「うん、もちろん」


 萌恵ちゃんがもぞもぞと体を動かし、私の布団に移る。

 次いで枕を並べれば、あっという間にいつも通りの構図が完成だ。


「んふふっ、あったかい」


 私にギュッと抱き着きながら、嬉しそうな声を漏らす萌恵ちゃん。

 私からも抱きしめ、自宅にいる時と同じ感覚で熱い抱擁を交わす。

 冷静に考えると、周りにクラスメイトがいる状態で同じ布団に入って抱き合うのって、相当大胆な行動なんじゃないだろうか。

 そう言えば、いつの間にか話し声が止んでいる。

 ちょうどいいタイミングで、先ほどまで雲に隠れていた月が顔を出し、教室内を淡く照らした。

 もうみんな眠ったのだろうかと思い周りを見回せば――


「っ!?」


 教室内の全員が私と萌恵ちゃんの様子を興味深そうに眺めていて、そのシュールな光景はお化け屋敷に勝るとも劣らない驚きを味わわせてくれた。


「えっ!? み、みんな、どうしたの?」


 と、私に続いて事態に気付いた萌恵ちゃんが声を上げる。


「あー、その……ごめんね、盗み見るつもりじゃなかったんだけど、二人がイチャイチャし始めたのが気になって、つい」


 隣の布団に寝転ぶクラスメイトが、みんなを代表して説明してくれた。

 物音を立てないよう気を付けていたつもりだったけど、普通にバレていたらしい。


「二人きりになりたかったら、いつでも言ってねっ。私たち、朝まで適当にその辺をうろついとくからっ」


 別のクラスメイトがテンション高めにそんなことを言い出し、他のみんなも賛同する。


「いやいや、それはいくらなんでも申し訳ないよ」


 気持ちだけ受け取り、丁重にお断りさせてもらう。


「そうだよ~。それに、せっかくの機会なんだから、みんなでおしゃべりしようよっ」


 萌恵ちゃんの言う通りだ。

 二人きりの家に帰らず学校での宿泊を選んだのだから、みんなとの交流を楽しみたい。

 まぁ、周りの迷惑にならない程度にイチャイチャするし、おやすみのキスも絶対に忘れないけども。


「じゃあ、二人にいろいろ質問してもいい? 実は前から聞きたかったことがあって――」


 真面目で気さくな委員長の発言を皮切りに、小一時間ほど怒涛の質問ラッシュが続く。

 そのうちの三割ぐらいは過激な内容だったけど、勢いに任せて正直に答えてしまった。

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