32話 新鮮な体験①
いよいよ文化祭が明日に迫り、今日は朝からクラス総出で頑張っている。
最初の作業は、使わない机を指定された保管場所に運び出すこと。
一仕事終えて教室に戻ってきたら、通路を形成する大道具として残していた机をいったん廊下に移し、ホームセンターで購入した黒色のビニールシートを教室の床に敷く。
速やかに机を教室に戻して、黒板に張り出された図面を見ながら通路を作るように机を並べる。
机に黒いごみ袋を被せていき、その上に黒く塗った段ボール箱を乗せて高さを稼ぐ。
当初は机を二段重ねるという意見もあったものの、万が一倒れたら危険ということで廃案となり、段ボールを黒く塗って積み重ねることになった。
「あっ、これは真菜が塗ったやつだね~」
赤い手形が付いている段ボールを見て、萌恵ちゃんが言う。
ホラーっぽい雰囲気が出ると思って提案したら即採用され、前回の作業で手に絵の具を塗りたくって段ボールにベタッと押し付けた。
「うん。自分で言うのもなんだけど、なかなかの名案だったと思う」
黒く塗り潰すところをあえて少し雑に塗り、赤い手形を目立たせているのが密かなこだわりポイント。
「確かに、これは誇っていいよっ。さすが真菜、センスが光ってる!」
萌恵ちゃんが満面の笑みを浮かべ、過剰なまでに称賛してくれる。
近くにいたクラスメイトもそれに便乗し、「真菜ちゃんすごい!」とか「天才!」と大げさな賛辞を送ってくれた。
「そ、そこまで褒められると、さすがに恥ずかしいかも……」
決して騒ぎ立てるほどの内容ではないので、お世辞だとしても申し訳なく感じてしまう。
人からこんなに褒められることなんて滅多にないから、嬉しくないと言えば嘘になるけども。
***
キリのいいところまで作業が進み、いったん手を止めて一息つく。
お茶を飲みつつ時計を見ると、正午を少し回ったところだった。
「そろそろお昼ごはんにする?」
「うんっ、そうしよ~!」
今日は昼休みの時間が決まっておらず、各自の判断で休憩を取ることになっている。
午後の作業に向けて英気を養うべく、私たちは早歩きで学食へ向かった。
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