24話 ついつい食べすぎてしまう
ちょっと奮発して、焼き菓子アソートを買った。
ギフト用ではなく、自分たちのおやつ用に。
「たくさん入ってるから、気長に楽しめるね」
「うんっ、二人で食べ切れるか心配なぐらいだよ~」
テーブルに置いて蓋を開け、実際に中身を見て心を躍らせる。
マドレーヌにフィナンシェ、バウムクーヘンにクッキーなど、おいしそうな物ばかり。
せっかくだから今日のおやつに何個か食べようということになり、萌恵ちゃんが紅茶の用意をしてくれる。
私はその間に二人分のクッションを用意し、お手拭きとして使えるようにウェットティッシュの容器をテーブル脇に置く。
準備が整ったら、向かい合わせに座って紅茶を一口いただき、アソートの箱に視線を移して照準を定める。
「まずはマドレーヌにしようかな」
「あたしはフィナンシェにするっ」
狙いの品を手に取り、包装袋を開封。
バターの芳醇な香りがふわっと舞い、食べる前からおいしさを確信する。
いただきますと声を合わせ、二人同時にお菓子を口に含む。
ふんわりとした食感、それでいて食べ応えもあり、濃厚な甘さとほのかに感じる柑橘系の香りがなんとも言えず……とにかくおいしい!
「――っ!」
勢いよく視線を正面に戻すと、萌恵ちゃんも同じように私の方を向いたところだった。
言葉を発するまでもなく、萌恵ちゃんの爛々と輝く瞳と歓喜の表情がすべてを物語っている。
おそらく、私も同じような表情を浮かべているのだろう。
マドレーヌもフィナンシェも一口で食べ切れるサイズではなく、お互いに一口分ずつ残っている。
「萌恵ちゃん、あーん」
私は欠片がテーブルに落ちないように左手を添えつつ、マドレーヌを掴んだ右手を萌恵ちゃんの口元へと近付けた。
「あ~んっ」
小さな口を大きく開き、マドレーヌをパクッと頬張る。
以前の私なら、間接キスだと大はしゃぎしていたことだろう。
キスやエッチを経験したいま、間接キスぐらいではそれほど動じない。
嘘です。めちゃくちゃ嬉しいです。
私が口を付けたお菓子を萌恵ちゃんが食べているんだと考えただけで、歓喜のあまり踊り出してしまいそうです。
「ん~っ、おいひいっ」
かわいい。
かわいすぎる。
かわいさの権化だよ。
満面の笑みを浮かべて心底おいしそうにお菓子を食べる姿を見て、心が浄化されていくような気分を覚える。
「真菜も食べてっ。はい、あ~ん!」
「あーん」
アーモンドと焦がしバターの風味が口いっぱいに広がり、サクッとした食感も相俟って、マドレーヌとは似て非なるおいしさが楽しめる。
萌恵ちゃんとの間接キスであることを意識すると、感動もひとしおだ。
「次はどれにしようかな~」
「いろいろあって迷っちゃうよね」
クッキーを除いて、アソートの中身は一口で食べるにはやや大きい。
咀嚼のしやすさを考慮すれば、半分ずつ口に含むのがちょうどいいぐらいだ。
私たちはその後も一口食べて残りの半分をお互いに食べさせ合うという流れを繰り返し、お菓子と幸せでお腹と心を満たしていった。
「「……あっ」」
数十分ほど経った頃、私と萌恵ちゃんのハッとした声が重なる。
眼下には、たくさんの包装袋と、空き箱になったアソートの容器。
この短時間で摂取したカロリーの量は……考えたくもない。
「そ、育ち盛りだし、仕方ないよね」
「う、うんっ! それに、食べ過ぎた分運動すればきっと大丈夫!」
***
それから数週間ほど、高カロリーな食べ物を控え、普段より多く体を動かした結果、幸いにも太らずに済んだ。
私としては少しぐらい胸に脂肪が付いてくれてもよかったんだけど、そう都合よくはいかない。
ちなみに、萌恵ちゃんのおっぱいはわずかながら成長した。
パッと見では気付かない程度だけど、他ならぬ私が言うのだから間違いない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます