16話 カレー作りのお手伝い①
今日の晩ごはんはカレーだ。
九月とはいえまだまだ暑く、食品売り場には夏野菜がたくさん並んでいた。
「萌恵ちゃん、手伝うよ」
「ありがと~っ、遠慮なく頼らせてもらうね!」
キッチンに入り、萌恵ちゃんの邪魔にならない位置に立つ。
カレーであれば、野菜を切ったり調味料とかを用意したりと、私にも手伝えることがある。
「じゃあ、あたしは玉ねぎを切るから――」
その名前が出た瞬間、私は「待って!」と声をかけて強引に遮った。
何事かと驚く萌恵ちゃんに、覚悟を決めた眼差しを向けて続きを話す。
「玉ねぎは、私に任せて」
「真菜……いいの?」
私の場違いな真剣さに影響されたのか、それとも『玉ねぎを切る』という行為に伴う代償を意識したのか、萌恵ちゃんの表情が引き締まる。
「うん。無事では済まないと思うけど、ある意味この役割を担うことが、カレー作りのお手伝いにおいて最も重要なことだから」
最終確認にコクリとうなずきつつ、嘘偽りのない意見を告げた。
すると、萌恵ちゃんはわずかばかりの迷いを見せた後、すぅっと息を吸い込み、私の目を見て口を開く。
「……分かった。玉ねぎは真菜に任せる。でも、つらくなったらすぐに言って! 手を止めてもいい、途中で投げ出してもいい……だけど、無理だけはしないで!」
「心配してくれてありがとう。大丈夫、無事に乗り越えてみせるからっ」
「真菜!」
「萌恵ちゃん!」
私たちは力強い抱擁を交わし、永遠の愛を確かめ合うように熱烈な口付けを交わした。
***
「あうぅ、ぐすっ。な、涙が、止まらないよぅ」
一旦手を止め、涙を拭う。
覚悟はしていたけど、やっぱり玉ねぎを切った時のこれは何度体験しても慣れない。
「代わろうか?」
「ううん、大丈夫。それより、さっきは変な空気に巻き込んでごめんね」
「んふふっ、ああいうのも新鮮で楽しかったよ~」
玉ねぎを切る係を引き受ける際の妙なノリは、我ながらなぜあんなことになったのか理解できない。
でも、萌恵ちゃんは楽しんでくれたみたいだし、ハグとキスを堪能できたし、いいこと尽くめだ。
まだ残る幸せな感触の余韻に浸りつつ、私は包丁を手に取り作業を再開した。
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