17話 カレー作りのお手伝い②

 用の済んだ二人分の包丁とまな板を洗った後、私は萌恵ちゃんのかわいい横顔――じゃなくて、萌恵ちゃんが料理する姿を隣から眺めていた。

 フライパンで炒められたお肉が、油の跳ねる音と共に色味を変えていく。

 そこに刻んだ野菜を投入して玉ねぎが透き通るぐらいまで炒めた後、あらかじめ調理台に置いていた鍋敷きの上にフライパンを移動。

 カレーやシチューを作る際に使っている寸胴鍋をコンロに乗せ、フライパンの中身を移して水を注いで煮込み始める。

 近くから眺めていると、改めて手際のよさに惚れ惚れしてしまう。

 決して難しい工程を踏んでいるわけではないのに、私のレベルでは同じように真似できないと確信できる。

 でも、カレー作りはまだ終わっていない。

 むしろ、ここからが本番だ。

 カレーと言えば隠し味!

『無自覚な料理下手』から『自覚のある料理下手』にランクアップした私の実力、いまこそ存分に発揮させてもらうとしよう。


「萌恵ちゃん、隠し味にハチミツ入れるよね?」


「入れるよ~」


 きちんと確認を取ってから、戸棚からハチミツを取り出す。

 カレールウの後に入れると酵素の影響でデンプンが分解され、とろみがなくなってしまう。

 入れるタイミングとしては、もうそろそろのはず。


「私が入れてもいい?」


「もちろんっ」


 萌恵ちゃんの明るい声に癒されつつ、キャップを外してボトルを鍋の上へ持って行く。

 ボトルを握る右手に力を込めると、ハチミツが鍋の中へ滝のように流れ込む。


「だいたい大さじ一杯ぐらいを目安にしてね」


「了解です、先生」


「ん、もういいかな~」


「チョコも入れる? コーヒーとか、ヨーグルトも」


 ハチミツを元の場所に仕舞いながら、以前になにかで読んだ気がする情報を記憶の中から引っ張り出す。

 カレールウを入れてかき混ぜる萌恵ちゃんに適宜指示を仰ぎ、必要な物を必要な量だけ鍋に入れていく。

 仕上げとして、鍋の方に向けて手をかざし、そのまま体勢をキープ。


「真菜、なにやってるの?」


「愛情を込めてる」


 素朴な疑問に対して正直に答えたものの、言葉に出したら少しばかり恥ずかしくなってきた。


「なるほど。これはもう絶対においしくなるね!」


 純粋無垢な萌恵ちゃんが愛おしすぎる。

 食後のデザートとして萌恵ちゃんをいただくことも、視野に入れておかなければならない。


***


 辛口のルウを使ったはずなのに、完成したカレーは普段よりも甘口だった。

 ハチミツを入れ過ぎたわけではなく、たくさん愛情を注いだ結果というのが、二人の共通認識である。

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