第3話 異世界を選ぼう
「転移をするに当たり、いろいろと決めておかなければならないことと、話しておかなければならないことがあります」
握手した手を引いて俺を立ち上がらせたセルフィスは、七つの世界を前に持ってくる。
「まず、転移先を選んでください」
「転移先? え? 七つ目の世界じゃないのか?」
最後の砦、って言うくらいだから、そこに送られるモンだと思ってた。
「いいえ。むしろ、それ以外の六つのどれかを選んでもらいます」
「ええっ?! なんっ、その六つは王に支配されてるんだろ?! なんで始めからいきなりハードモードで行こうとすんの?!」
「必要なことなのです。それに、支配されているといっても、全ての地が王の占領下に置かれているわけではありません。六つの世界には女神、すなわち私の加護によって築かれた
「希望の、灯?」
俺が小首を傾げると、セルフィスは「ええ」と頷いた。
「6人の王によって世界は分断され、我が子は存亡の危機に立たされました。しかし、我が子もただ手を
「……だから、まず六つの世界のどれかに行って、その力を手に入れろ、ってことか……」
「その通りです」
セルフィスはもう一度、頷いて、ステッキでシャンと床をついた。彼女の左手の上に浮かんでいた世界の一つがそれに反応し、俺の目の前に躍り出てくる。
シャボン玉のような丸い枠の中にあるのは、鬱蒼とした森の中をたくさんの大きな怪獣が歩き回る世界だ。
「第一の世界。『
「うわぁ……最初からこれか……」
説明が終わると第一の世界は元の場所に戻っていく。しかし、女神が生活できないと明言する世界がのっけとは、中々の前途多難だ。もしかして、全ての世界が同じような厳しい環境というわけじゃないだろうな。
早くもセルフィスの手を握ったことを軽く後悔し始めている間に、次の世界が目の前にやってくる。今度は夕焼けに染まる火山らしき大山が特徴的な大きな島の内容だ。
「第二の世界。『
「女性?! つまり、女だけの世界ってことか?!」
どうせ
女だけの世界だなんて、まさしく男の理想郷ではないか。そんな所に転移した暁には…………うへへ。
「そっかー。おんなだけの世界かー。それは男にはなかなか辛いじょーきょーだなー。でも、えり好みなんてしてられないしー。えっと、じゃあ俺はこの世界で――」
「ただ、あなたが送られる聖域内は、王に追いやられた男性でほぼ構成されている完全な男性中心の社会です。ああ、ここにしますか。では――」
「いやいやいや! やっぱり一通り聞いてから選ぼうかな! うん!」
慌てて首を振って拒否する。あっぶねー! 危うく最悪の形で異世界生活をスタートするところだった! ヒロインがいない異世界冒険なんてごめんだぜ!
……そんな目で俺を見ないでおくれセルフィスよ。さあ、次の世界を紹介してください!
「……続けます」
俺への侮蔑の視線を切って、セルフィスは次の世界を持ってくる。視界に入ってくるのは月下に照らされる廃村の風景。闇夜の中に人影のようなものがちらほらと揺れているが、人らしからぬ挙動をしていて、とにかく不気味だ。
「第三の世界。『
「こえぇ……」
次は打って変わって
ただ、誰も彼もが無表情で、淡々と作業に没頭しているのが気にかかるが。
「なんかちょっとおかしいけど、さっきのに比べたら……」
「第四の世界。『
「全然そんなことはなかった!」
そして次にやってきたのは、乾いた大地に赤い風が吹き荒ぶ世界。分厚い雲に覆われた空の下では、たくさんの亡骸を貪る獣たちが闇に蠢いている。非常に陰鬱でおどろおどろしい世界だ。
「第五の世界。『
「いよいよ人間すらいなくなった?!」
ヤバい。ヤバいぞ、これ。どの世界もほぼ壊滅状態じゃないか。頑張りすぎだろ、王の連中。
いや、そもそも人類を滅ぼそうとしているヤツらだ。女神様ですら世界を切り離すしかなかった、それほどまでに王たちの攻勢は苛烈を極めたんだろう。そんな連中に支配された世界だ、切迫した状況に追い込まれていても不思議じゃない。
しかし……楽じゃないとは思ってたけど、まさかここまでとは。世界を救う、という目標の重さが改めて身に染みてくる。まあ、こんな困難を打ち破るからこそ、勇者と呼ばれるんだろうが。
「そして、これが最後の世界です」
思い悩んでいるうちに最後の世界が前にやってくる。
今度はどんな凄惨な世界なんだろう。期待せずに見て、その光景に拍子抜けした。
目に映るのはありふれた農村。小高い山の裾野に開かれた小さな村で、殺伐としているわけでもなく、無秩序でもない。たくさんの農民が畑仕事に精を出している。その人々も、よそよそしい雰囲気を醸しているが、ちゃんと感情の断片が見て取れた。
「第六の世界。『
そう冷然と告げて、セルフィスは最後の世界を俺の面前から戻した。そして、訊ねてくる。
「これで六つの世界の紹介を終わります。さあ、どれがいいですか?」
正直、全てお断りしたいのですが。
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