第5話 クラーケンちゃん、いらっしゃ~い

「続きまして、これも大本命ですわな。いらっしゃ~い」


 その女性は、八本の足と二本の触椀を器用に操る、人間サイズのイカですわ。

 人間の顔が額の中央にあるから、着ぐるみやとは思うんでっけど。


「我は、クラーケンである。ぐらころ」

 

 もうええわ。


 この間のスライムちゃんより、掴みどころがないやん。


「その触椀を操って、世の男たちを魅了していったとか」

 アシスタントのセヤナちゃんが、話題を振りました。


「うむ。くすぐりの刑である」


 ブーッ!

  

「えっ? えらいヌルい攻撃でんなー」


 もっとエローい攻撃を期待してたんやが。

 ねちっこく責めて、こみ上げさせるような。


「何を言うのか。人間はくすぐられ過ぎると、呼吸ができなくなって死ぬのである」


 せやけども!


「だが、くすぐりを適度に繰り返すと、なぜか病みつきになってしまうのである。余韻を残しつつ、いつまでも笑っているのである」


 分からんでもない。クラーケンちゃんの言葉には、妙な説得力がありました。


 たしかにくすぐられすぎたら、放置されてもまだくすぐりの感触が残ってるんよね。


「我は、その絶妙なポイントを見極めることに長けているのである。これで相手の攻撃や呪文の詠唱を止めることも可能」


 ああ、確かに海洋生物系の攻撃に「マヒ」ってあるけど、「くすぐり」のコトなんかもなぁ。

 

「試すであるか?」


 クラーケンちゃんが、触椀をいやらしくクネらせて、わたくしの鼻先に向けてきます。


「いえいえ、死にたくないので。変な性癖に目覚めそうなので」


「それがまた快感なのである」


「ええっちゅうねん」



 そないな執着心は、勇者に向けて欲しいねん。


「エロいことするんやけど、やれそう?」

「知識はある。一点集中させれば、あっという間に昇天させる自信はある」


 ほほう。


「くすぐったいポイントさえ掴めれば」


 全然、エロ知識があれへんかった!


「衣装選びやねんけど、着れるんかいな?」

「もう決まってる。競泳水着である」


 フラットな体型の競泳水着少女が、イカの着ぐるみの下からポンと出てきました。

 

 やっぱり着ぐるみやんけ!


――三日後


「魔王サマ大変です。クラーケンちゃんが干物に!」



 ブーッ!


「干物て! セヤナちゃん、もっと言葉を選びなはれや」


 海洋生物の干物って、それミイラやないか。


「そうではなく、あの子元々モノグサだったらしく、三日坊主になっちゃって。激しく恋に落ちてすぐに冷めて、『めんどい』と海に帰っちゃったそうです」


 ブーッ!


 そっちの干物かい!

 水が合わへんかったとかやかましいわ!

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