フェチ7:魔女、聖法院木鞠

「……くっ!」


 その姿勢、その迫力、その言霊ことだま

 オレの脳髄のうずいを揺さぶる。

 オレは、負けるのか!?


「そして、その人間そのものを揺さぶる攻撃を仕掛ける。ヒロ氏は相手にとって魅力の塊となるのだ! そう、フェティッシュとなるのだ!」


 聖法院の言葉に負けてしまうのか!?


「……いや、まだだ。まだ終らん! 聖法院、フェチを攻撃するのは判った。だが、本当にソレを攻撃できるのか。そして本当にそれは効果があるのか!」

「ほぅ……?」

「それが証明できねば、オレを屈服させることなど不可能だと思えっ」

「はっはっは、実に面白い。ではいいだろう。ヒロ氏のフェチは既に見抜いている」

「な……ふ、ふふっ、強がりを」

「それはどうかな。こいこ、いこい!」


 聖法院が二人を立たせる。オレとの間に距離を取らせた。

 おかげで三人の全身像が見える。

 そして、こいこ? いこい? どちらかのスカートの端を、聖法院がつまみあげる。

 双子はシンメトリーを崩されたせいなのか、思考が停止して固まったように見えた。


「何を……!?」

「ずばり、君は『絶対領域ぜったいりょういきフェチ』だ」

「な、に……!?」


 スカートは徐々に持ち上げれる。こいこ、いこい……どちらかの足がどんどんあらわになる。

 黒いストッキングがその全貌ぜんぼうを現す。

 いや、違う!

 ストッキングと思われたソレは、オーバーニーソックス!

 途中でこい……もういい。二人合わせてコイコイと呼んでくれるわ!

 そのコイコイの白い肌が姿を現す。

 しかもただの太ももではない。


「ガーター、ヴェルト、だと!?」


 思わず生唾なまつばを飲みこむ。のどがゴクリと鳴った。

 この先、スカートが更に進めば、そこは……

 しかし、待てども待てども、それ以上めくり上がらない。

 思わず聖法院の顔を凝視ぎょうしする。

 綺麗きれいな顔は少し赤らんでいるものの、ニヤニヤ笑っていた。


「どうして? というような顔をしているね」

「……くっ!?」


 しまった。コイツは罠だ。オレを誘惑ゆうわくして、下僕げぼくにする気なのだ。


「……罠とは、卑怯ひきょうな! だが見たい!」


 うっかり心の声が口かられる。


「はっはっはっ、実にヒロ氏は正直ものだなぁ」


 気分を害してないと思われる言葉。

 オレは否が応でも期待してしまう。


「……しかし、本当にこのスカートを捲っていいのかね?」


 聖法院の一言。

 コイツは、なにを言ってるんだ?


「い、いいに決まっている!」

「本当にかね? 判っていないだろうが、この先を見ると、ヒロ氏は落胆らくたんするだろう」

「オレが、落胆だと!?」

「そう、このフェチは実にはかない。とてもせつないのだよ」

「い、一体どういうことだ! 説明しろ聖法院!」

「絶対領域というのは、このスカートとオーバーニーソックスの間、この露になった太ももの部分を言う」

「そ、それがどうした!」

「いいかい。このスカートが更にめくれると下着が見えてしまう。そうなるとどうなる?」

「っ!? ……ぜ、絶対領域の崩壊が始まるのか……!?」

「その通り。絶対と言われるこの領域は、実はいとも簡単に崩れ去ってしまう」


 確かに、言われる通りだ。


「だがしかし、オレはパンツが見たい!」

「ふっ、それが浅はかなのだよ!」

「オレが、浅はか、だと!?」

「本当にこいこがパンツをはいていると思っているのかね?」

「……な、に?」

「そう、ブルマかも知れないぞ。アンダースコートかもしれないぞ。しかし、君は想像しているはずだ。この先の魅惑の三角形を」


 本命、飾り気のない純白。次点、水色みずいろ横縞よこじま。大穴、フリル黒、赤リボン付き。


「事実を見てしまえば、君のその幻想は破壊される」

「!?」

「そして、君はこう思うだろう。ああ、なんだ。そんなパンツなのか。なんだアンダースコートか。現実は意外に普通だな。結局、正体が判ったらつまらないな。それが触れるわけでもないのに。しかも、水着と対して変わらないじゃないか。とね」

「!?」


 確かに、そうかも知れない。

 オレはグラビアアイドルの水着写真程度ではビクともしない。

 確かに、見えそうで見えないのが良い。たとえ水着であってもパレオがついている奴がいい。隙間からも見えるのではなく、見えそうで見えないのがいい。


「まさか……そんなまさか!!」

「そう、君は、この儚い絶対領域でしか興奮を得られない、ということだよ」

「バカなああぁぁ!! オレはそれでも見たいんだ! 見たいはずなんだああぁぁ!」


 聖法院は最後にスカートをたくし上げた。

 だが、オレは恐れてしまった。

 オレの幻想が、オレの心が壊れるなど、許されない。

 オレは、オレは……

 目を、逸らしてしまった。


「フェチに正直なことは、よいことだよ、ヒロ氏」


 オレは、敗北を悟った。

 聖法院木鞠という魔女に、完敗した。

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