フェチ5:骸骨とスクール水着

「はぁ……」


 オレは大きくため息せをついた。

 もうすぐ家につく。日はまだ高い。

 結局、オレは勇気を発揮はっきできず、声をかけられなかった。

 この選ばれた佐藤ともあろう、オレが!

 こ、これが英雄に与えられる試練というものか……!

 これを越えてみよという天啓てんけいなのかぁっ!

 ならばやらねばなるまい! やらねばなるまいよ!

 そう、この試練を乗り超えて、オレはさらに選ばれた厳選げんせん佐藤になるのだ!

 ……しかし、それはそれとして、そろそろオレの家に着くはずなのだが……

 なぜだろう。見知っているが、あまり見ない景色けしきみこんだ。

 どういうことか?

 振り返る。

 誰かの家の前にダンボールが積みあがっている。

 ……それがオレの家じゃあなかろうか?

 いや、しかし中からメイド服を着た見知らぬ女の子が出てきたぞ。身長が低い。中学生か?

 黒のボブカットに見事なカチューシャ。見事なロングスカート。しかも富士にも負けぬ天晴あっぱれな胸。

 加えて素晴らしい速度だ。

 ダンボールを掴み、家へ向かったと思いきや、すぐさま現れ、次のダンボールをつかむ。

 ……玄関に入れてるだけか?

 いや、それにしても早いだろう。玄関まで飛び石が五つの距離。

 タイミング的には、玄関でダンボールを置いた瞬間に、次のダンボールを持っているように思える……

 もしや、腕が伸びているとか、加速しているとか、まさか、時間を止めているとか!?

 オレは恐る恐る玄関の様子をのぞく。

 そこには、二人いた。まったく同じ顔で、同じ服装、同じ身長の女の子が。

 そ、そうか……分身の術だったか……?

 というよりも、現実的に考えるならば双子だろう。

 こちらを見て笑いかける。呼吸がまったく同じだ。

 ほ、本当に双子か?

 ここまでシンクロしていると面白いを通り越して怖い域だな……


「……いや、というか……オレの家で、なにを、している?」


 双子は顔を見合わせた。

 なにも聞いていないんですか?

 と、言いたげな視線をダブルでよこされる。

 なんかこの展開、朝やったな。もしやこれ聖法院がらみか?


「ああ、帰っていたのかね。おかえりヒロ氏」


 バンダナ、ティーシャツ、ジーパン姿の聖法院が家の中から出てくる。


「すまないね。まだ荷物が片付いていないんだ」

「あ、ああ……そうか。ここで、暮らすんだもんな……?」

「二階の一室いっしつと、一階の奥の部屋を使わせてもらうが、かまわないかね?」

「え、あ、ああ?」

「いきなりやってきて、二室にしつも使用するのはあつかましいと判っているのだが。日本の住宅事情も知っているしね」


 聖法院はダンボールを持つと、家の中に入っていく。

 オレも一つ持って家に入った。

 廊下、階段、台所、いたるところにダンボールが積み上げてある。

 二室にこれが収まるのか?

 いや、そんな疑問は後でいい。

 今は、台所にいたセーラー服を着た人体模型について議論すべきだ。

 ……あれはまだ許容範囲だな。

 問題は隣の白骨模型だ。スクール水着を着用している。

 どういったシチュエーションが想定され、用意されたものなのか……

 この選ばれし佐藤の想像力が追いつかない。

 何かやばい気配を感じる。

 ……いや、違う!

 オレは階段を上る聖法院を呼び止める。


「おい、聖法院。あの分身メイドはなんだ!?」

「引越しサービスの一環いっかんだよ」

「なん、だと!?」


 今は、そんなサービスがあるのか……!

 しかも双子、中学生とか、レベルが高いにもほどがあるぞ。

 聖法院が振り返ってこちらをいぶかしげに見つめた。


「まさか、信じたのかね?」

「なん、だと……!?」

「はっはっはっ、ヒロ氏は純粋だね」

「な、ならば真実は!?」

「ああ、彼女たちは以前から私の世話をしてくれててね。同級生でもあるのだが」


 二階に到達する。二階は中央に廊下、左右に二部屋ずつある。オレの部屋は右奥だ。

 聖法院はどうやら左奥を選んだらしい。


「せ、世話?」


 オレは下で作業をしている双子を見る。

 双子はにこやかに微笑んで首をかしげた。

 というか、同級生!? 高校生だと!?


「さて、ヒロ氏は台所でお茶でも飲んでいてくれたまえ。もう少しでひと段落する」

「……はっ!? そうだ! お前、当たり前のように引越しの準備を進めているが、やはりもう少し事情というかだな、は、話し合いが必要だと思うのだ!」


 運命の話題を切り出すための布石。聖法院に文句をつけているようで少し気持ち悪かった。


「……ふむ、君が嘘をついたということかね?」


 ――受け入れてくれるのかね?

 聖法院も少し不機嫌そうにした。申し訳ない気分になる。


「……あ、いや、そうじゃない。い、妹として暮らすのなら、もう少し理解を深めて、誤解のないようにしておきたいんだ」


 しかめていたまゆをあげて、聖法院は視線を泳がせた。


「……なるほど、一理あるね。ならば、こいこ、いこい、茶器ちゃきを出してくれるかね? お茶にしよう」


 こいこ、いこいと呼ばれた双子が同時にうなづく。すぐさま台所の方へ向かった。


「……なぁ、本人のいるところじゃ聞けないから先に聞いておくが……あの双子、しゃべれないのか?」

「いや、ただ口数が少ないだけだよ。しゃべるとすごいから期待していたまえ」

「すごい……?」

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