第一章――運命の倒錯
フェチ1:突然の妹、来襲
そしてオレは目覚めた。
だが目の前は暗い。息苦しくもある。
どういうことだ!?
大慌てで自分の顔を探る。
「………………」
オレは冷静に布団を
寝返りをうった時に布団が巻きついたのだろう……と見せかけて選ばれたオレを
「はっはっはっ、見事に打ち破ってみせたぞ! ……ヒックシッ!」
春とは言え、まだ
冷えた胸さすり体を
今、
ベッド脇においてあるタッチパネル式携帯電話――スマートフォンを手に取る。
時刻は六時五十九分。後数秒で設定しておいた目覚ましが鳴る。
はっ、危なかった。時間になったら爆弾に
ふっ、オレの指先一つでお前は
画面に触れベルを止める。
その瞬間、別のところでベルが鳴った。
一瞬、
……いやいや、爆弾とか
もう一度タッチパネルを触る。
再びベルが鳴った。
玄関のチャイムだ。……爆弾、の関係はなさそうだ?
しかし、こんな朝早くに
鏡で自分の姿を確認する。
服装は水色のパジャマ。このまま出てもいいだろうか? まぁ待たせるよりはいいだろう。
二階から駆け下りて玄関へ向かう。
引き戸の鍵をはずし開ける。
そこにはプラチナブロンド髪をツーテールにした少女が立っていた。
服装は
左手に水晶。右手に宝石の振り子を持っている。脇には学校指定の
つりあがった大きな目の視線と、オレの視線がぶつかった。
まぁ、そこまではいいとして後ろにいるヤギ(?)は一体?
キリスト教の宗教絵画に描かれている悪魔のような立派なツノ。ツノのみで一メートルくらいありそうだな……
うん、正直おっかない。
オレは思わず戸を閉めた。しばしの
怪しい
いや、これは、ひょっとして選ばれた状況なのでは?
うーむ……
オレはもう一度、戸を開ける。
同じ姿のまま、そこに存在する少女。そしてヤギ(?)。
もう一度、閉める。
うーむ……
開ける。
「…………」
しばし見つめあう。
こんな
クラス章はひし形に赤のライン。確か、三年生のものだ。
先輩……? いや、三年生はこの間、卒業したじゃないか。
つまり、このクラス章は今日、入学する一年生のものだ。
新入生がうちにどういう用件だ?
代わりに
「きょ、今日を選んだのは、その方が驚くだろうと思ってだ」
「は?」
突然の一言。
若干、オレの思考力が追いつかなかった。この少女が何を言ったのか理解できなかった。
しかし、しかしである。
これは、選ばれた香りがする。例えるならそう、
玄関においてある自動消臭機器のことは忘れよう。
そう、これは異世界へ出発する
オレの
あの夢はこの変化を告げる夢だったのだあぁ!
「待っていたぞ。オレの方こそ待っていた! さぁ、
異世界へ連れて行くがいい!
と、言いかけたところで、少女の一言が割って入る。
「おお、さすが話が判るね、ヒロ氏。では早速お邪魔させていただくよ」
少女が家の中へ入る。ヤギ(?)も入る。
オレは異世界へ入り
「……お、おいおい、まてまてまて、ヤギィ……?」
「ああ、そうだね。失礼した。ナックル。玄関でまっているんだ」
ナックルと呼ばれたヤギ(?)はうなづくと、玄関を守るように、玄関先に座った。
「……い、意外と
ナックルがこちらを
「ナックルは一応、ヤギではなく、アイベックスという。最初は許してくれるだろうが、次は危険だ。心しておくほうがよいよ」
若干、少女は嬉しそうに語った。
「興味があるかね?」
「え、いや……」
今は、お前の存在の方が気になる。一体、何者なんだ?
「あと、な……オレの名前、間違えているぞ?」
「……
「……あれ? お前、さっきヒロシって……」
「……いや藤原氏、足利氏といったような、氏をつけただけだが……」
「……あ、ああ……そうか、そうだな……なるほど……」
なんだか、英雄が急に一般人になった気がした。気のせい。気のせいだな。
「というか、なぜ、オレの名前を知っている……? あ、いや、これは
そうだ、異世界へ連れて行こうとする者が、選ばれたオレの名前を知らないはずがない。
「確かに愚問だね。ヒロ氏。では、いいかね? 入って」
「えっ、あぁ……?」
オレの直感が
いや、しかし、この状況、異世界へ行く以外の何がある?
……トラックにはねられるのとかは
こういう時こそ自信を持て。
そうだ、今、家の奥へ少女が行くのも、理由があるのだ。
家の中のタンスか何かが、異世界への道となっているに違いない!
「オレの部屋は二階にある。どこに向かうんだ?」
「うむ。そうだね。ヒロ氏の部屋が二階にあるのなら、私の部屋も二階にするか」
住む気か!? いや、考えろ。設置、そうだ、異世界への道を設置するに違いない。
「そ、それは楽しみだな」
「……だからと言って、変なことはしないでくれたまえよ」
「そうだな。下手に触ったら、なにが起こるか判らんしな」
少女が階段を上る手前で立ち止まり、振り返る。
「……ヒロ氏? 触るつもりだったのかね?」
「いや、触れなければ行けないだろうが?」
「いけないことはないが……そうだね。ス、ス、スキンシップはあって
スキンシップ? つまり、異世界への扉は生き物か何かか?
ま、まさかアイベックスか? それはちょっと勇気がいるな……
「じゃ、若干、気恥ずかしいが、これから世話になるしね。とりあえずはあ、あ、あ、握手でかまわないかね?」
そう言って、顔を真っ赤にしながら手を差し伸べる少女。
異世界への扉は少女そのもの!?
こ、これはちょっと嬉しいじゃないか。はっはっはっ。
しかしいきなりとは、オレにも心の準備と言うものが……
オレは恐る恐る彼女の手を取った。柔らかいが、少し冷えている。一回りも小さい手が、女の子だと言うことを意識させた。
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