新妹神理使い、フェティシズムをかく語りき

('ω')

プロローグ:夢の中の邂逅


 オレは黒い球体の中にいた。

 内側にはレリーフがたくさん刻まれている。窓も光源もないのに確認できた。

 シーラカンス、恐竜きょうりゅう、女、男、骸骨がいこつ、ねずみ、土器、気球、スクール水着……

 意味が判らない。

 なんだ、選ばれたオレだからこそ見る崇高すうこうな夢ではないのか?

 ちなみに、オレは選ばれている。なぜなら世界は平等びょうどうではないからだ。

 真に世界が平等ならば、顔に特徴とくちょうなど表れないからな。

 つまり白髪の多いまっすぐな頭髪、ややりあがった目、ヘの字に曲がった薄い口といったオレの顔は世界が不平等だと証明している。

 そしてオレの存在は数百億、数兆分の一と言った確率の中で、オレにしかなりえなかった。

 結果、オレは奇跡きせき。選ばれた存在というわけだ。

 まぁ、その奇跡の土台どだいに、多くの人間が立っているのを知っている。

 しかし、オレはその中でも飛びぬけている。

 なぜならレリーフの一部から少女が飛び出しているからだ。

 しかも全裸。

 もう一度いおう。

 全裸の少女が夢に登場している!

 何かが起こりそうな予感がするだろう!?

 そんな状況にいるオレは、選ばれていてしかり。

 ……しかし、かわいそうな状態だな。

 髪の毛はひっぱられ球体に同化どうかしている……

 というよりは髪の毛がこの球体を作っているのか?

 足の先と手の先も球体に飲みこまれている。

 オレは空間を泳ぎ少女のもとへ行こうとした。

 しかし泳ごうとすればするほど少女から遠ざかっていく。

 はっ!? ならば離れようとしたなら近づくのではないか? オレは天才か!?

 逆に泳ぐ。

 二倍早く遠ざかった。

 絶句ぜっく

 よもや天才たるこのオレが、こんな残念な結果を迎えようとは。

 その時どこからともなく声がする。


「イヒ ズーフタ エス……」


 少女の声。

 すぐ傍でささやかれているように聞こえる。か細い、すぐに折れてしまいそうな声。

 オレは少女の方を見た。

 目を閉じていた少女は薄目うすめを開けていた。

 彼女の声がここまで届いている?


「探して……レッテァ……オウシィェン」


 ん? どういう意味だ? レッテル? オシエン? その前にイヒってなんだ?

 日本語が混じっているようだが、他の発音は日本語ではない。英語だろうか?


「オウシィェン フィア ミシ……ブォーダー!」


 少女が体をよじる。

 しかし球体は彼女を逃さない。

 彼女は、いつか完全に飲みこまれてしまうのだろうか?

 それまで身動きも満足にとれないまま独りでここにいるのだろうか?

 ……寂しいだろうな。

 選ばれたオレが助け出してやらないと……

 オレの口から泡のようなものが出て行った。少女の方へ向かっていく。

 ここは水中だったのだろうか?

 しかし息苦しい……

 急に息ができなくなった気がした。

 吸っても吸っても空気が喉を通らない。

 くそう! なんだ、どうなってるんだ!?


「ブォーダー……ダンクェ……」


 少女の最後に一言。同時に水滴すいてきが一粒だけオレの元へ届いた。

 相変わらず何を言っているのか判らない。

 ボーダー、ダンク……あとで、生きていたらネット検索してみよう……

 意識が混濁こんだくする中でオレはずっと、そう考えていた。

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