第13話
音楽が流れ、それに合わせて人形みたいなモデルがランウェイを通っては帰っていく。
「……」
西園寺先輩も 河内先輩も真面目な顔で、ショーを見ている。
咲ちゃんに至ってはすごいスピードでメモを取っている。
わたしも軽いメモのようなものはとっているが、咲ちゃんほどじゃない。
ファッションショーに呼ばれた各ブランドのデザイナー達は見せるための服というのも出している。もちろん普段着に着てもオシャレな服もあるが、ほぼ裸のような服や、左右非対称な服そもそもどうやって着るのかすらわからないような服さえある。
各ブランドは私達のようなポッと出のブランドとは違う、一度は聞いたことあるようなブランド達が自分のブランドをアピールする為に、何より“目立つ為”に、奇抜なファッションを作る。
(ホントに……すごい世界だなぁ……)
だけど、不思議と後悔も不安もない。
咲ちゃんとこの世界に入った以上私も逃げるつもりは一切ない。
と思ってショーをみていると、伊吹さんがランウェイを歩いてくる。
「最後に私の立ち上げた新ブランド『quality』をご覧ください」
そう宣言したあと私達のいる席の方を少しみた気がする。
伊吹さんがランウェイを帰って行く最中、西園寺先輩はずっと不適な笑みを浮かべていた。
格好よくてリズミカルな曲が流れる。さっきまでのファッションショーとは違う。ド派手な衣装を使った目を引くショーじゃない。全てが実用的で“売る”為のデザインの服だ。
目を引くようなデザインじゃないのに記憶に残るし思わず欲しいと思ってしまう。ただそれ以上に……
(咲ちゃんのデザインの雰囲気に似てる……)
まるで咲ちゃんのデザインの行きつく先にある完成されたようなデザイン。
今まで伊吹さんはスタイリッシュでフォーマルなデザインの服がほとんどだったはず。
それが急に可愛らしいカジュアルな服で来た。発表の直前に意味ありげにこっちを見ていたことを考えると……
「挑発……宣戦布告……まぁ、なんでもいいですわね」
横で西園寺先輩がショーを見ながら呟いた。
「どうせトップを取るなら関係ありませんもの」
一切私達が負けるという事を疑うことすらしていなさそうに。でも、少し嬉しそうに笑って伊吹先輩の作ったファッションを眺めていた。
―――
ショーが終わった舞台裏、飯田さんの元に西園寺先輩と共に連れられて行った。
「お疲れ様ですわ」
「楽しんでくれたのなら何よりです」
西園寺先輩と飯田さんの間に火花でも散りそうなほどに視線がぶつかり合う。
「あ、あの……」
横で咲ちゃんが小さな声と手を挙げた。
すると二人の視線が咲ちゃんに集まる。
「私には……凄く、いい刺激になりました。ありがとうございます。西園寺社長も連れ来て頂き……あ、ありがとうございます」
「…………そうですか。いえ、こちらこそイロイロ刺激になりました」
「ふふっ、得るものは大きかったようですね」
蛇に睨まれた蛙のように一瞬怯んだが小さな声ながらも二人の目を見て伝える。
「……そうですわね……今日は少し才川さんと話がしたいですわ。才川さんお時間貰ってもよろしくて?」
その後私に視線を向ける。
「私は構いませんよ」
そう、と続けて咲ちゃんに「才川さんを少し借りますわね……そうですね。河内、一緒にご飯でも食べてきなさい。経費で落として構いませんわ」
声を掛けられた二人がぱちくりと目を合わせる。珍しい組み合わせになったものだ。
「……って、経費で落とす作業するの私ですけどね」
「まぁ、そうですわね」
「それは良いですけど。咲さん、大丈夫ですか?ご予定などは……?」
「い、いえ、特には……」
「じゃあ会社のお金で好きなものでも食べに行きましょうか」
「ぜ、ぜひお願いします」
「よかったです。色々と聞きたいこともあったんですよね」
「話はまとまったことですし、私達ももう出ましょうか。それではまた今度もお願いしますわね“伊吹”」
「……ええ、こちらこそ。私も今日の打ち上げがあるのでこれで失礼します。次からはしっかり見学許可を取って下さいね」
朝の様子だとある程度仲がよさそうにしていたので最後に嫌味のようなことを言うなんて意外といえば意外だったが、どことなく二人とも表情が少しだけ楽しそうにしているのがわかった。
「ふふっ、善処しますわ」
―――
レストランでまた食事をすることになったが、前回よりまだ入りやすいお店とはいえそれでもまだ緊張する。
「それで、本題ですわ。旭川さんの手伝いが最近多すぎますわね」
「は、はい……でも、私が一作品作るより咲ちゃ……旭川さんの作品を少しでも多く作った方がいいとおもいます」
「…………」
そういったら、西園寺先輩はなにも返さなかった。
「……えっと」
「本当にそう思っていますの?」
いつも以上に鋭い眼光。
「私は……」
本当にそう思っています。なのに言葉に出来なかった。
「説経なんてするつもりはありませんが、少々旭川さんに甘え過ぎですわね」
「甘え、ですか」
「えぇ、確かに旭川さんは天才と呼ぶに相応しい人材だと思いますわ」
やっぱり、咲ちゃんは誰の目からみても天才なのだろう。
一緒に仕事をしたいと思ってくれてる咲ちゃんのついでに雇われた私とは大違いだ。
「……ただ、私は凡人なんて雇った覚えもありませんわ」
「それは……」
私も咲ちゃんと同じような……とはいかないまでも天才とでも言うことだろうか?それは……
「まぁ、他人に貴方は凡人じゃないなんて言われて納得するような人、わたしは好きじゃないですけど」
「……」
「私は私の目を信じていますわ。たとえ貴方自身が信じてなくても」
目をしっかりと見つめる。でも、私にはそれを受け入れるには自信がない。
「問い詰め過ぎましたわね……」西園寺先輩の迫力のある視線がすこし柔らかくなった。「じゃあ、もう少し才川さんにデザインを描いて欲しい。という風にとっていただいて構いませんわ」
「それは……はい、もちろんです。私もデザインを描くのは好きなので、これからはもう少し描くようにします」
私だってデザイナーの端くれとはいえ、プロのデザイナーなのだ。辞めたつもりは無い。
「ふふっ、そうですわね。じゃあ食事でもしましょう」
「そうですね。ここはよく来るんですか?」
話を変えるように話題を振ったが私には自分の才能について考えさせられた。私が才能があるなら、咲ちゃんと本当の意味で横に立てるの……かな?
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