第9話
早朝6時目を覚ますと、咲ちゃんと同じベッドで寝ていた。
(寝顔可愛いなぁ……)
咲ちゃんの頭を一撫でして、寝室を後にする。
「んー、ちょっと眠いかな……」
寝起きの身体を伸ばしてほぐしていく。
コーヒーメーカーのスイッチを入れて冷蔵庫な扉の中をみて朝食を考える。
(卵があるから……スクランブルエッグ……目玉焼き……出汁巻きもいいかな)
卵を4つ取り出し、作り置きのサラダを出す。
「んー、今日は和食の気分!」
何となくだけどそう思ったら行動は早い。直ぐに米を研いで早炊きのスイッチをかける。
それがほぼ同時に出来上がったコーヒーをマグカップへと移し替える。
眠気覚ましにブラックのまま飲み干す。
「咲ちゃんも起きるのもうちょっとだけ後だろうし、今の内にシャワー浴びとこ」
シャワーを浴びるために着替えを持って浴室へ向かい。パジャマを脱いで洗濯籠へ放り込む。
浴室に入りシャワーの温度を調整しながら今日の予定を頭の中で組み立てる。
「……ふぅ」
軽く髪を梳かしながら身体の寝汗を洗い流し終わると、シャワーを止めて足ふきマットを床に敷きバスタオルで身体を拭きドライヤーを髪にかけてヘアブラシで整える。
服を着てリビングにでるとちょうど咲ちゃんも起きてきた。
「おはよう。咲ちゃん」
「おはよぉ。優ちゃん早いね」
寝起きで目を擦りながら朝の挨拶をする咲ちゃんにコップ一杯の水を渡す。“ありがと”とお礼を言う咲ちゃんに、
「シャワー浴びる?湯船に浸かるなら渡さなきゃだけど」
と聞いたら首を横に振って、
「シャワーでいいよ。じゃあシャワー借りるね」
「ごゆっくりー」
そのまま浴室に向かう優ちゃんを見送りながらエプロンを身体に巻く。
ボウルを出して卵を割る。割り箸でグチャグチャにかき混ぜ溶き卵を作り、中に出汁や塩を入れて味をつける。
冷蔵庫の鮭の切り身も取り出して先に火を通すと同時に出汁巻き用のフライパンを温める。
温まったフライパンに油を少し垂らすと後は慣れた手付きで卵を流し端から焼けた部分を丸めるようにめくっていく。
鼻歌混じりに出来上がった一本の出汁巻きを手頃な一口サイズへと切っていく。
小さめのお鍋にお湯を沸かし味噌とパック出汁を入れて味噌汁を作る。
具材は豆腐と刻みネギというシンプルなもの。
「んー、ちょうどいいや。でも……咲ちゃんって基本的に濃い味付けが好きだからなぁ……」
とりあえず今日の味付けはこのままで次のお味噌汁は濃いめにしよう。
「あーでも濃くするなら塩分が気になるし……減塩味噌買っとこうかな」
そんな独り言を呟くと、ちょうど咲ちゃんがお風呂を上がり扉を開ける音がした。
「お待たせ~」
「朝ご飯出来たから一緒に食べよ」
「うん。あ、お皿並べるね」
「あ、じゃあ冷蔵庫から納豆も並べておいてくれる?」
「りょーかい、わかった。並べとくね」
器に料理をよそいでいく。二人でそれを食卓へと運び移す。
鮭に出汁巻き、味噌汁納豆。我ながら今日の朝食の出来はいい方だと思う。
「飲み物は?オレンジジュースとかもあるけど」
「うーん、優ちゃんは?」
「私は牛乳でも飲もうかな?」
「じゃあ、私も同じのでお願い」
「はーい」
2つのグラスに牛乳注いぐ。机に料理とともに置いた咲ちゃんと席に着く。
咲ちゃんと目を合い、両手を合わせ食事の合図をする。咲ちゃんも続いて手を合わせる。
「「いただきます」」
納豆のパックを開けかき混ぜる。
「やっぱり朝ご飯は食べなきゃだね」
「昨日まで朝はコンビニパンだったもんね」
「うん。でも、朝からしっかり食べれるのっていいね」
私は昔から両親に作ってもらった朝食を食べる名残で朝はしっかり食べるようにしてる。
「明日は食パンにしようと思ってるけどいい?」
「うん、明日の朝ご飯も楽しみにしてるね」
いつもは一人前しか作ってなかったけど、2人前作るのが私は楽しい。いつまでこの同棲が続くのかわからないけど今のこの生活を精一杯楽しもうと思う。
―――
「準備出来た?」
化粧を済ませ会社への出勤準備を整える。
今日中にパターンを作り上げるのと同時に本職のデザインの方も進めないといけない。
「うん、おまたせ」
そう言う今日の咲ちゃんもバッチリ可愛い。
御伽噺に出てくるような妖精みたいな可愛さの咲ちゃんと朝から出勤出来るのは最高に嬉しい。
玄関へ一緒に歩いて靴を履く。
「優ちゃんそういえばパターンのいい案出た?」
咲ちゃんが屈んでヒールを履きながら私のことを見上げて聞いてきた。
「うんまぁ、あとで試作作ってみるから咲ちゃんも見てくれない?」
昨日の夜遅くまで咲ちゃんと仕事をした甲斐あって一応形にはなりそうだった。
「ほんとっ?!見たい見たい!楽しみにしてるね!」
勢いよく立つ咲ちゃん。ハイヒールを履いても私より少し低い位の身長でググッと迫る咲ちゃんに思わず照れて目を逸らす。
「う、うん」
そこまで期待されてると思ってなかった。ここまで期待されてるなら私も頑張らない訳にはいかない。
私は誰のためでもない咲ちゃんの笑顔の為に働いているんだから。
―――
電車で向った会社で、西園寺先輩、もとい社長がコーヒーを飲みながら新聞を読んで待っていた。
「お、おはようございます。社長」
「あら、予想より早かったですわね。おはようございます」
挨拶をして私達に気づいたようで飲んでいたコーヒーを机に置いた。
すると椅子から立ち上がり、咲ちゃんの元へと近寄り顔をすぐ側まで近寄せる。
「ん、まだまだですが、まだマシですわね」
一度咲ちゃんの耳元で一、二言くらい何かを小声で言ってから離れると満足したようにうなずき次は私の方へと近づいてきた。息がかかるほど近寄る西園寺先輩に少し焦る。
「ん、貴方はほぼ完璧ですわね」そう言った後続けて「では、この調子で同棲続けて下さいな」
そう言ったら新聞と少し残ったコーヒーカップを指さして「片付けといてくださいな。今日はお二人の顔色を見た来ただけですので」と言って出て行ってしまった。
「最後なんて言ってたの?」
咲ちゃんに聞いてみると「……なんだろうね……別に特に大したことは言われなかったよ」
少し表情を硬くしたと思ったらすぐに「まぁ、いいじゃん。仕事しちゃお、優ちゃんのパターンもたのしみにしてるからね」
誤魔化す様に笑って自分の席に座ってノートを取り出して仕事を始めてしまった。
「……」
あまり触れられたくない話題なのかもしれない。西園寺先輩がわざわざ耳打ちで伝えたことを聞くこと自体がそもそも野暮だったのかもしれない。
気になりはするけど、咲ちゃんが隠すなら信じて黙って私もパターンを完成させるのが先決だろう。
仕事を始める前に給湯室にマグカップを突っ込んで新聞をゴミ箱へと捨てる。
「……よしっ」
仕事を始めるために気合いを入れて気持ちを切り替える。トルソーに咲ちゃんの作り上げたデザインを見ながら立体として作り上げる。
(はぁ……やっぱり咲ちゃんのデザインいいなぁ)
専門学校時代から何も変わらずに私は咲ちゃんのデザインが凄く好きだ。模型に布を当てシルエットを作り上げていく。この作業をしている最中、咲ちゃんが何を考えてこのデザインを描いたのか。可愛いところを目立たせたり、あえてさりげなさを出してみたり。私の中の咲ちゃんと会話をするようにパターンを作っていく。
一度引いてみてみてボリュームが足りてない、シルエットが良くない、デザインの良さを殺している、気付くことはたくさんある。それを丁寧に修正していく。
―――
「……出来た」
時計を見るといつの間にか昼を回っていたになっていた。
体感では1時間も経っていないような気さえしたのに、もうそろそろ昼食をとるような時間になっていた。
咲ちゃんの方を見ると咲ちゃんも集中して気付いてないみたいだ。
「咲ちゃん、お昼にしよ」
「ん、ああ!そうだね、お昼行こうか」
声を掛けると私の顔をみた後、時計を見上げる。
「優ちゃんパターンどんな感じ?」
「とりあえずは仮なんだけど作れたよ。お昼が終わったら見せるね」
「やった!じゃあ早くお昼行こっ!」
「ちょ、ちょっと待ってよ。そんなに焦らなくてもちゃんと見せるから」
そう言って小さなお揃いのカバンを持って優ちゃんは私の手を引いた。
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