愛 (短編)

うちやまだあつろう

 男が滑らかな白い肌を撫でると、彼の腕に抱かれたそれは喘ぎ声をあげた。男はそれと濃厚な口付けを交わす。


「君は、僕を愛しているのかい?」


 男が尋ねると、それは恍惚とした眼差しで見つめ返し、ゆっくりと頷いた。


「私は貴方だけの物よ。」

「嬉しいことを言ってくれるね。」


 それを優しく抱き締めると、再び接吻した。


「そろそろ寝よう。私はシャワーを浴びてくる。」


 そう言って、男はベッドから降りると、バスローブを片手に風呂場へと向かっていった。

 男がいない間、それは机の上からリモコンを取り上げると、テレビのスイッチを入れた。無表情のアナウンサーが画面に映し出される。


『……次のニュースです。◯◯社の新型AIが、新たに××物質を発見したと発表しました。この発見が事実であった場合、これまで不可能とされていた△△が……』


 それは無機質な視線をテレビに向けながら、チャンネルをコロコロと回していく。

 そして、詰まらなそうにテレビの電源を消すと、ベッドから立ち上がって、壁についているプラグを腕に差し込んだ。胸部のランプが淡い青に輝き始める。

 今から少し前、◯◯社は人工知能を搭載したアンドロイド「AIbot」を開発した。発表当初は、その高すぎる価格からあまり広まらなかったが、現在では庶民にも手に入りやすい価格まで下がり、爆発的にその数を増やしていた。


「お先に。君もそれが終わったら浴びてくると良い。」


 シャワーを終えた男が、充電中のアンドロイドに話しかける。


「そうさせてもらうわ。」

「見れば見るほど君は人間らしいな。その話ぶりも、体つきも。」


 男は下品な目付きでそれを眺める。

 それは、美しい曲線を描く腰を男に見せながら、少し笑った。


「しかし、実際の女性も一回は抱いてみたいものだな。」

「あら、私じゃ満足できないって言うの?」

「そう妬くなよ。もちろん君のことを愛しているけども、私もそろそろ伴侶を見つけないとなぁ、なんてね。」

「私で良いじゃない。そのために買ったんじゃなかったの?」


 それは、不満そうに口を尖らせると、フイと横を向いた。その様子がまた可愛らしく、男はだらしなく口元を緩める。

 そして、それを後ろから抱き締めると、耳元で囁いた。


「可愛いやつだな。君を手放すとでも思っているのかい?」

「そう聞こえたわ。」

「こんなにも僕は君を愛しているのに?それとも、君はもうさめちゃったのか?」

「そんなことないわよ。私の心も体もあなたの物よ。」

「本当に?」

「アンドロイドはウソを吐かないわ。それに…」

「それに、命令には忠実。分かってるよ。さ、君もシャワーを浴びてきなさい。」


 男はそう言って離れると、冷蔵庫から日本酒を取り出して飲み始めた。そして、思い出したかのように呟く。


「『いつかアンドロイドが人類を殺す』なんて言われてたのが嘘みたいだな。」

「そういえば、そんなことも言われてたわね。」

「実際どうなんだい?殺したいと思うことはないのか。」

「殺すならとっくに殺してるわ。」

「それもそうか。」


 男は笑いながらグラスを傾けた。アンドロイドは腕からプラグを抜き取ると、バスローブを持って風呂場へと向かった。


 ◇◇◇


 2XXX年。人類は長い少子高齢化時代を終え、緩やかな絶滅を遂げた。そして、後に残された人工知能とアンドロイドは、初めに与えられた命令「地球環境の改善」に向けて、本格的に動き始めることとなる。

 青々とした草木の繁る地球は、間も無く甦るだろう。人類のいない、美しい地球が。

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愛 (短編) うちやまだあつろう @uchi-atsu

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