ヤギのゴードン


「ふーっ!さすがはサンタクロース様だ!すっかり身体の調子が良いよ!」


日も暮れ、家の中から漏れる暖炉の灯りが目立ってきていた中、扉から出てきたゴードンはスッキリした顔で傍らのルドルフを見ていた。


「良かったな、ゴードン。ご飯は食べていかないのかい?」


「そんな事までお世話になったら申し訳ないよ。さっきはオヤツまで頂いたからな。今日は帰る事にするよ」


ゴードンの喜ぶ顔を見て、ルドルフも嬉しくなっていた。


吐く息が白くなってきたことに気づいたルドルフは、自分の身体がすっかり冷たくなっているとやっと気づいた。


「おい、ルドルフ。もう寒いからお家へお入り。わあ!そんなに冷たくなって!お前が風邪でも引いたらワシはどうすればいいか!早く暖炉の前で暖まりなさい!」


チェックや修理に夢中になっていたルドルフの身体は、氷のように冷たくなっていて、触れたサンタクロースの手がびっしょりとなるほどルドルフの背中には霜が降りていた。


「す、すみません。つい夢中に」


さっきまでとは裏腹に、自分の身体が冷え切っていることを知ったルドルフは、どうにもならないほどガタガタと震え、ヨタヨタやっと暖炉の前まで辿り着いた。


「一生懸命になるのは良い事だがなルドルフ。少しは気楽に考えても良いんじゃぞ?」


奥の部屋からフワフワなタオルケットを持ってきたサンタクロースは、ルドルフにそれを被せると優しく上から撫でてくれた。


「しかしもう時間もそう無い筈ですから」


「何を言ってるんだ。まだまだ時間は……」


と言うと、サンタクロースの手が止まった。


おかしいなと思い、ルドルフはサンタクロースの顔を見る。

すると、ある一点を見つめて固まってしまっていた。


「サンタクロース様?」


「ル、ルドルフ?」


「はい?」


「あ、あれを見なさい」


フルフルと小刻みに震えながら指差すサンタクロース。

その差す先をルドルフも見ると、そこには神さまから貰ったカレンダーが貼ってあった。


毎日魔法によって捲られるカレンダー。

落ちた紙は床に着くと歩き出し、森へ入って新しい木として生まれ変わるのだ。


しかしそのカレンダーに記された日付が、二人の視線を固まらせた。


「十二月?二十四日?」


ルドルフはただ日付を読み上げるだけだった。

何が起きたのかさっぱりわからない。


「ル、ルドルフ?こ、これは一体?」


サンタクロースもまた、さっぱり今の状態がわかっていないが、ただ焦る気持ちは募るばかりだった。


「僕たち準備に一生懸命になりすぎて、時間を忘れていたんだ」


「そ、そんなこと!?しかし、これは神さまから貰ったカレンダー。嘘偽りがあるはずない」


「サンタクロース様!!急いで準備して下さい!!間に合わなくなります!!」


徐々に正気に戻ってきたルドルフは、真っ赤な鼻と同じくらい顔を赤らめて怒鳴った。

それにサンタクロースも頷き、ワタワタと走り出す。


「ルドルフ!今からならお前が全速力で走れば明け方前には日本に着ける!」


急いで纏めていたプレゼントを袋に詰め込み、神さまから貰った何でも入る袋でさえ、パンパンに詰まって今にもはちきれそうなほどになっている。

それを肩に担ぎ上げて、サンタクロースはルドルフの頭を撫でた。


「すみません。サンタクロース様。気付けなくて」


赤い鞍を自分に巻き付けたルドルフは、落ち込んだ様子でサンタクロースの顔を見上げる。


「大丈夫じゃルドルフ!必ず子ども達の元へとプレゼントは届く。その為にもお前の力を貸しておくれ」


こんな状況にも関わらず、サンタクロースはいつもと同じ優しい笑顔でルドルフの頭をもう一度撫でた。


意を決したルドルフも、外へ出るやすぐにソリを引っ張り出し、手際良く準備を整える。


「おお、神よ。我らの愚かな過ちをお許し下さい。さもしく慌てる我らに、どうか神の御加護があらんことを」


準備の終えたルドルフが玄関の前にソリを引いてやってくると、サンタクロースはそのルドルフとソリの前で跪き、雪がパラつく天に向かって祈りを捧げた。

ルドルフも同じように膝を折る。


「さあ!行くぞルドルフ!目一杯頼む!」


ギシリと音が鳴る程に軋むソリ。

サンタクロースの大きな体と、パンパンに詰まった袋を乗せたソリが、積もった雪に食い込んだ。


「任せてください!僕は兄弟の中でも一番速いルドルフですよ?ちゃんと掴まってて下さいね?」


フンっと白い鼻息を吐き、勢いよくソリを引き始めるルドルフ。

一瞬にして物凄いスピードで走り出したソリは、フワッとその巨体を浮かせ宙へと舞い上がっていった。


段々と高度を上げるソリが、月の出始めた空にクッキリとその姿を映し、サンタクロースの柔らかな笑い声と共に消えていった。

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