あわてんぼうのサンタクロース


「あわてんぼーのサンタクロースークリスマスまえーにやってきたー」


「縁起でもない!やめてくださいよその歌!」


いそいそとキラキラした箱達を手に持ち、ウロウロあっちこっちに動き回るぽっちゃりした白いお髭のおじいさんに、真っ赤なお鼻が特徴的なフサフサの毛並みをしたトナカイが、しかめっ面で怒鳴っていた。


「ほっほっほっ。神経質なトナカイだなぁ。愉快じゃないかこの歌。ワシは好きじゃぞ?」


よいしょっと一際大きな箱を運び終えると、おじいさんは暖炉の前のソファに腰掛けた。


「僕は大っ嫌いです!あとあの歌!なんですか!赤鼻のトナカイって!馬鹿にしすぎです!」


やいのやいのと喚きながら、トナカイのルドルフは、おじいさんにつられて暖炉の前にやってきた。


「あの歌もいい歌じゃぞ?少しは大らかになりなさいルドルフ。ワシらは夢を運んどるんじゃ」


おじいさんがソファの隣にやってきたルドルフの背中を撫で付けると、ルドルフは前脚を畳んでゆっくりと腰を下ろす。

ルドルフはおじいさんに撫でられるのが、一番なによりも好きだった。


「はい。サンタクロース様。この時期になると僕はどうしてもソワソワしてしまって」


トロンとした目をしたルドルフは、サンタクロースの暖かい手に微睡み、パチパチと音を立てる暖炉の火を瞳から徐々に消していった。


「今日も疲れたね、ルドルフ。ゆっくりとおやすみ」


サンタクロースの優しい声が、最後に残った火を優しく消した。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



フィンランドの山奥。

森に囲まれた湖のほとりに、サンタクロースの家はあった。

サンタクロースとルドルフで建てた、木の家だ。

神さまより授かったこの地は、聖域としての結界が張り巡らされており、森の動物や昆虫、湖の魚達以外からは見えないようになっている。


サンタクロース兄弟の十三番目、日本を担当するこの家の主人サンタクロースと、その使いのトナカイルドルフ。

各国にクリスマスプレゼントを配る為に、神さまから遣わされた精霊であるサンタクロースは、この時期だけはイソイソと忙しなく生活していた。



「おや、今日も忙しそうだなルドルフ」


森から一頭のヤギがのんびり歩いてやってきた。


「おう、ゴードン。見ての通りクリスマスの準備さ。日本の子どもたちが待ってるからな」


サンタクロースを乗せて走るソリを念入りにチェックしていたルドルフは、作業を止めずにヤギのゴードンにそう言った。


「大変だなぁ毎年。サンタクロース様はお家かい?」


「ああ、家の中でプレゼントのチェックをしているよ。撫でて貰いに来たのかい?」


「そうなんだが、忙しそうならまたの機会にでもするかなぁ」


申し訳なさそうにしているゴードンをチラッと見たルドルフは、自分ばかり撫でて貰っているせいもあってか少し心苦しく思った。


「なあに!お願いするといいよ!サンタクロース様がそんな事で嫌な顔するわけがないさ」


「そうかなぁ。サンタクロース様に撫でて貰うと身体が軽くなるんだ。めっきり寒くなってきたから撫でて貰えると有難い。少し甘えてみようかな」


ゴードンはそう言うとニコッと笑い、木の扉を開けて中へ入っていった。


「きっとサンタクロース様ならゴードンのお願いを聞いてくれるさ」


ルドルフは心配そうに木の扉が閉まるのを見ていたが、気を取り直してソリのチェックに戻った。


毎年の事ながら、日本までの道のりは険しい。

神さまの遣いとして、天使さま達が同行してくれるが、サンタクロースを狙う悪魔達が攻撃してこないとも限らない。


サンタクロースの精霊としての癒しの力を悪魔達は狙っていて、この聖域を出るクリスマスの日には必ず何かしらの形で接触してこようとしてくるのだ。


時にはカラスに化けて、時には黒猫に化けて、動物達にも優しいサンタクロースへの罠が沢山用意されている。

それを駆け抜ける為にも、ルドルフのソリは重要であり、不可欠な存在なのだ。


「今年も必ずお守りして、日本の子ども達にプレゼントを届けるんだ!」


ルドルフはフンっと鼻息を荒くし、生い茂る木々の隙間に見える空を眺めた。

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