第5話神さんからのプレゼント

 今まで生活していた地球に戻る生き方(戻ったとしても同じ時代にはほぼ0%の確率で戻れない)




そして




新たな世界での新たな生活……つまり、異世界!




「 はい! 新しい世界でお願いします。てか、新しい世界に行くために俺は導かれたのです。ぐっばい地球! うぇるかむ新世界!」




 俺は瞬時に答える。当たり前だ。社畜の俺にとって今の生活に何の未練もない。恋人もおらずただ毎日を生きているだけ。そう。生きるために仕事をするのではなく、仕事のために生きているだけなのだ。むしろ、巷で流行りの異世界ってのに興味が尽きない。




《あらら! 意外と即決なんだね―! 迷惑かけたお詫びに君に新しい世界で生きるためのプレゼントしよっか―?》




「マジでぇぇ! 例えばどんなのがあるんだ?」




 きた! これはあれだ! スキルとかなにやらチート的な特質を付与してくれるってやつだな! そのスキルで[俺って最強!]モードで楽しく暮らせってやつだな~さすが神様だ! よくわかってらっしゃる!




《そうだね―魔術を使えたり、すっごく体力があったりいろんな物を作れたりする器用さに特化したりとか―とにかく新たな世界でちょっとだけでも生きていきやすいように、他の人より秀でた特質くらいなら大丈夫かな―!》




 きた! やはり俺の思っていた通りの流れだな! となれば……俺が望むのは……
















「地球のネットショッピングだけ使わせてもらえないか?」
















 俺の言葉を聞くとシューラさんとリーヌは埴輪のような顔をして固まっていた。










《えーっと。君は強くなりたくないのかな?》


「別にいい。」


《身体的な強さよりおつむをなんとかした方がよろしいのでは?……ぷぷぷっ》




《強かったらモテるよ―?》


「そんなモテ方は嫌だ。」


《あまり女性に興味を持たれなさそうなお顔ですからモテることに慣れてないのでしょう……ぷぷぷっ》




《もしかしたら色んな活躍して高い地位をもらえるかもだよ―?》


「あんまし興味がない。」


《そうですね。人にはそれぞれ見あった立場を受けるのが相応しいと思いますね。平民は平民らしくと……ぷぷぷっ》




《ネットショッピングって……あれだよね? お店に行かなくても希望するものがあれば手軽に買うことができるってやつだよね?》


「そうだ。それこそがネットショッピングだ。店まで行く必要なし!」


《あらら。他の方と接するのが苦手なのでしょうか?これはいけませんね。引きこもりの予備軍ですね。……ぷぷぷっ》






 シューラさんと話してるのに割り込んでくるレゴブロックめほんっっっとにウザい&ムカつく!!


 よくこんな性格で神さんとか自負してるな。親の顔が見てみたいわ。






《む―。君がそう言うなら別にいいんだけど。》


「マジでネットショッピングだけあればいいんだ。それだけで生きていける自信がある。」




 なかなか引き下がらない彼女をつっぱねるように俺の意見を押し通す。すまぬな。心を読むあなたらには言葉に出すのも出さぬのも今の俺には控えたほうがいいのだ。




《そかそか―! じゃ、なるべく今の地球の時にあわせた世界にしよっか? 時代が離れすぎてたらネットショッピング自体がないかもしれないしね―!》




「そうだな。あと、支払いなんだが自分で稼いだお金で払うから買い物し放題ってのはなしで。だから、代金の単価とかは地球に似たところがいいな。」




《うんうん。そりゃそうだよね―! なんでもただで手に入ったら自堕落な生活しかしないだろうからね! じゃそのへんをふまえて探してみよっか-! ちょっと待っててね!》




 そう言うとシューラさんは両手を拡げ目を見開いて宙を見つめている。その目は深い藍色に光りながら周りのものを吸い寄せるかのような力を放っているようだ。やがて彼女の目の前に霞がかかったようなビジョンが映し出され、様々な景色が目まぐるしく変わっている。


 レゴブロックはレゴブロックで彼女の後ろからその様子を静かに見守っている。




 小一時間ほど過ぎただろうか。シューラさんがひとつのビジョンに目を止めた。




《この世界に転移するなら君にも生活しやすいかな?ちょっと地球とは違うけど、通貨はほとんど同じ価値だしちゃんと空気もあるからね―! それに……》




 シューラさんは俺から顔を背けながらニヤニヤしている。彼女が映し出したビジョンを見ていたレゴブロックは《ぶふぉっ》と勢いよく吹いている。




「それに……何だ? その続きが気になる! そのニヤニヤ顔も気になる! そして、空気があるとかないとか転移以前の問題じゃないのか? 決定的に気になるのがレゴブロックよ。なぜにおまえは吹いたんだ!?」




《ナンノコトデスカ?》


《アナタノミマチガイデハアリマセンカ?》


《アナタハモノゴトヲフカクカンガエスギデスヨ?》




なんで二人とも片言の外人みたいなしゃべりになってんだ!?


なんで二人とも俺の顔を見て話をしないんだ!?


なんで二人とも肩が震えてる? もしかして笑いたいの我慢してる!?




 俺は身を乗り出してシューラさんにつっかかる。せっかくの異世界なのに不安を抱えて足を運びたくはない。そんな俺を軽く振り払うように踵を返しシューラさんは話を続ける。




《あはは! ま―小さいことは気にしない! じゃこの世界にしとこう! ちなみに、今のままで転移するからね! 若返ったり赤ちゃんになるとかってゆ―のはないから―!》




「……わかった。もう深くつっこむのはよそう。しかし、若返らないのは助かるな。またガキんちょから成長するなんぞ面倒なだけだからな。」




《だね―!最後に君に聞きたいんだけど、なんで強さを求めなかったんだい? 希代の勇者としてその名を新たな地で響かせるのも容易だったんだよ?》




「それはな、強ければ戦わないといけないだろ? 今まで仕事しかしてないやつがいきなり剣やら弓やら持って戦えるかってんだ。それに強くなれば強くなるほど魔王とかドラゴンとか圧倒的なもんと戦わざるをえなくなるだろ? そんなん無理に決まってるじゃん! 大体、異世界行って無茶ぶりチートなんてできるわけないじゃ……」




 と、俺が猛烈に至極まっとうな意見を述べているとシューラさんが話を遮るように切り出してきた。




《あはは―! やっぱり君はなかなかの人間ちゃんだね! あたしは君に会えてよかったよ! たぶん君と顔をあわせて話すのはこれが最後になるだろうけど、絶対に絶対に君の顔は忘れないからね!》




 シューラさんはそう言うと複雑な刺繍が施されたポストマンバッグと1枚の銀色のプレートを俺に差し出した。




《このプレートに両手を触れるとネットショッピングできるからね―! 地球にあるタブレットってゆ―のに似せて作ったから簡単に扱えると思う!》




 手渡された銀色のプレートには何の飾りもない。しかし両手で持つとほのかに光り出して、見慣れたネットショッピングのトップページが現れた。




《そしてこっちのカバンはもうひとつのプレゼントだよ! マジックバッグなんだけど、許容量無制限でいろんなもの詰め込めるからね! もちろん生ものもオッケーだよ! ただし、生きたものは入れられないからね! あとは実際に使ってみて!》




 おお! これは便利なものを頂いた! マジックバッグなんて物はやはり異世界でしか使えないからな!


 俺は頂いたカバンをまじまじと見つめていると、シューラさんが近づいてきて俺の手を握り優しく呟く。




《じゃそろそろお別れだね―! 君の行く末にあたしからの保護を! そしていかなるときも屈せぬ強き心を! 力に溺れぬ魂に祝福を!》




その言葉が終わると同時に周りの景色が段々と薄れてゆく。




《紀野。いや、キノよ。これを持っていきなさい。》




 レゴブロ……もといリーヌが俺にブレスレットを渡してきた。俺のことをキノって呼んだな。




《とりあえず常に身につけておきなさい。ぷぷぷっ》




くっそ。最後までイラつくレゴブロックだな。




だが、神さんからのプレゼント。




悪いもんじゃないよな。




ありがとよ。




レゴ・・。







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