第4話


 次の日はきちんと学校にいった。

 冬の朝は布団か恋しくなるが、どうにか布団から這い出て登校した。

 学校では、いつものように、寝て過ごした。

 夕方になり、下校している時。

 家までの道中に本屋さんがあるんだ。

 そこに、本屋では珍しい、ガチャガチャがあった。

 普段そんなものに興味はないのだが、今回は少し惹かれた。

 それがEGOのガチャガチャだからというわけではない。

 キーホルダーなどは付けないし、飾らない。

 それは、必要性を感じないからだった。

 今回は例外。EGOのアイテムなんて、よく見かけるものだ。

 だが今回は例外だった。なんだか、回したくなったんだ。

 異様に惹かれて、一度だけ、回してしまった。

 目当ての物は十個のうち一つ。

 何も考えずに、それを回したんだ。

 当たればいいとかそんな事も考えず、ただ気づいたら回していた。

 目当ての物が当たった。

 白くて、まあるい、かわいらしい敵キャラ。

 買った後に、これ、どうしようと考える。

 でも、うれしかった。

 シロさんが好きなキャラだ。

 シロさんが長い時間をかけてテイムして、ペットにしたキャラだ。

 シロさんに報告しようと思った。

 あまり見ないそのキーホルダーを知ったら驚くだろうと思った。

 その日は少し、脚を早くして帰宅した。


 家に着き、玄関を開けると、リビングの扉が開いた。

 姉が出てくる。

 姉とは目を合わせれば喧嘩するような仲だ。

 喧嘩するほど、というが、そんなことを言う奴はぶん殴ってやりたいと思う。

 だが、その日は姉は何も言わずに階段を昇って行ったんだ。

 姉が昇ってすぐの階段は、なんだか昇りたくなかった。

 気持ちが悪いというか、なんというか。

 いや、気持ちが悪いんだ。

 喧嘩しっぱなしの仲なんだ。

 そんな仲は厭だったが、仲良く話している風景を想像すると吐き気がした。

 階段の方に足を進めず、キッチンの方へ向かった。


 キッチンの電気をつける。

 ゴミ袋からあふれた空のスーパーの弁当が目に入る。

 これが現実。

 自分でもわかるような嫌な顔をして、見ないふりをする。

 あれは俺が捨てたものではないんだ。

 片づけない方が悪い。

 冷蔵庫を開け、食べ物を探る。

 何もないことなんて知っている。

 でも冷蔵庫を開ける。

 冷蔵庫の中に自分の物はなく、姉か父の物しかない。

 いつものように、冷蔵庫を閉める。

 部屋へと足を進める。

 すると、リビングの奥から、父の足音が聞こえた。

 逃げるように階段へ向かう。

 顔を合わせたくないんだ。面倒くさいんだ。

 姉の私物とホコリが転がっている階段を、呼吸を浅くしながら昇る。

 自分の部屋に入り、扉を閉じる。

 それを見計らったかのように、姉が部屋から出て、階段を下りていく音がした。

 父と姉は夕食を食べに出かけるに違いない。

 どうでもいい。

 カイトはパソコンを開き、スリープを解除する。

 ホーム画面はすぐに開いた。

 EGOを起動する。

 その間に制服から着替える。

 それはいつもの動きだった。

 今回は、キーホルダーを机の上に置いて、が、先に来るようだ。

 着替え終わり、椅子に座り、パソコンに向き直る。


 ―カイ がログインしました―

 カイ こんばんは


 シロさんはログインしていなかった。

 それもそうだ。今の時間、シロさんは帰宅中か、残業をしているだろう。

 白い、まあるい敵キャラに目をやり、画面に目を戻す。

 さぁ、シロさんが来るまで、一人でクエストを周回していよう。

 シロさんが来たら白い、まあるい敵キャラのキーホルダーのことを自慢してやろう。

 欲しいと言ったら、まぁ、プレゼントしよう。


 でもその日、シロさんがログインすることはなかった。

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