第5話

 葵は、ハイディとともに行動するようになり、少しずつクラスメイトたちとも触れ合うようになっていった。

 


「エルミーヌ、笑うようになったよな」


「無表情の時は、怖かったし、いろいろ噂もあったけど……。俺ダンスパーティー誘おうかな」


「所詮、魔法も使えない女だぞ」

 


 オスヴィンは否定的な意見をしつつも、少しずつマリーから気持ちは離れていき、葵の記憶しかない状態のエルミーヌに、興味がで始めるのであった。

 オスヴィンは葵の前に立つと、片膝をつく。

 


「エルミーヌ、此度のダンスパーティー私と踊らないか? 一応、私の婚約者だろう?」 


 

 周囲がざわつく中、葵はハイディにダンスパーティーとは何か確認する。


 どうやら、魔法使いのほとんどが貴族のため社交性を学ぶために、年1回ダンスパーティーが行われているようだ。そして、男子から意中の女性に誘うのが、定例となっているらしい。


 葵は片膝をつくオスヴィンに耳打ちする。


 

「私に気を使わなくていいのです。マリーさんと踊ってください。私は当日雰囲気だけ楽しめれば、それでいいのです」

 


 そういうと、葵は教室を出た。呆気にとられたオスヴィンは、膝をついたまま固まっていたのであった。

 

 

 

 



 放課後の研究室では、その話を聞いた先生が、上機嫌で鼻歌を歌いながら、何か魔法陣を書いている。

 


「エルミーヌもったいないわ。性格は少し横暴な奴だけど、顔だけはいいのに……。婚約者特権で踊ってもらえばよかったのよ」


「んー。私記憶を無くして踊れないし、今から練習しても迷惑かけるだけだろうから、当日は会場の様子を見ているわ」


 

 どうやら、ハイディもダンスのお相手がいるらしい。先生は上機嫌のまま少女に魔法陣を書いた紙を渡す。葵は首を傾げる。

 


「この魔法陣は新しい精霊と、契約を交わすときに使われるものさ。ここに自分の血を垂らしてみて……」

 


 葵はナイフで指に刃を立て、一滴血を垂らした。

 すると、魔法陣から煙が出てきて、教室内は冷気で包まれて、身が凍えるほどの寒さだ。

 


「汝、我と契約する者か? 面白い魂をしている……。雷帝も、もう一度、契約し直せばいいものを……。女よ。血をもう一滴垂らせ」

 


 言われるがままに、血をたらせば、もう一体精霊が出てきた。

 


「一つの魔法陣から、2体の精霊が出てくるなんて……。しかも氷帝ヴィルフィルミーラと雷帝アウクスティだと……」 


「では、そなたの名を教えろ」


「エルミーヌ・シャレット」


『本当の名は?』


『アオイ』


「フフフ。気に入った雷帝よ。戻るぞ」


 精霊2体が去れば、先生もハイディも唖然としていた。

 


「私、これで魔法が使えるようになったのかしら?」


「ああ、とんでもない高出力な魔法も使えるようになった……」

 


 何やら考えこみ始めた先生をおいて、二人で帰路に着いたのであった。

 

 

 

 

 

 魔法の書を読み進め、補講も受けながら、少女は気が付けば学園で有名な魔法使いとなっていた。


 最高位の2体の精霊を同時に召喚し、従えるのは前代未聞の出来事だったからである。


 いつぞやの悪役令嬢の噂も吹っ飛び、孤立から今では引く手数多の存在となっていた。 


 

 ダンスパーディーの申し込みが後を絶たず、すべて断っていた。

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