第1話 切り裂きジャック―――第10節

「わたしは大変遺憾である。」


 私は今怒っているのである。


 今いるのは自宅の居間で、ちゃぶ台について以蔵が出してきたおやつをたべていた。


「なんですか。羊羹が口に合いませんでしたか。」


「羊羹じゃない。妖怪のほうだ。」


 わたしはちゃぶ台を叩いて以蔵に講義をする。


「なんで折角の妖怪退治を何のアクションもなくアッサリと倒してしまうんだ。正直なにしてんのか分かんなかったぞ。」


「はぁ~。あのねお嬢、俺達は遊びでやっているんじゃないって言っただろ。事前に準備してやるときは速攻、手の内なんか見せないようにするもんだ。まして高々オカルト深度もレベル3程度なら。」


「む~、遊びじゃないってのは分かったけどさ、そこは期待しちゃったんだよぉ~。」


「何をだ!」


「バラ色をぉ~。っじゃなくってだな、少しは勉強になるようなことをだよ。なのに、バッと来てシュッと何か出してボッと燃えてハイおしまい。わたしが「やったか?」って言っても本当に終わってるんだもん。」


「まぁ、そこは解説してあげますから機嫌なおしてくださいな。」


 そう言った以蔵はピンクのエプロンを外して席に着く。


「タバコ吸っていいか?」


「ダメ、吸うなら縁側で。」


「へーい。」


 結局以蔵は縁側の煙が室内に入らずともわたしと話ができる位置に胡坐をかいた。

 タバコをふかし始めた以蔵にわたしから質問をしてみた。



「さっき言ってたオカルトの深度ってなに。」

「あぁ、それなら俺等プロが情報をやり取りするときに使うオカルトの脅威レベルの格付けだよ。昨日のんはレベル3だよ。」

「それってどれくらい危険なの。」

「レベル1だと個人にしか見えない幻聴や幻覚、よくある心霊写真のオーブくらいのものだ。」

「動画サイトでユーチューバーが真っ赤な心霊写真取れてたけどあれも?」

「写真だけならレベル1なんだけど、あそこまで赤いともう一歩踏み込んでマジにさせてたら2を通り越して3レベルになっていたかもしれんな。」


「で、1と2の差って何?」


「レベル1はぶっちゃけ気のせいとか言っちゃえるレベルだけどレベル2は現実に何らかの実害が起これレベルなわける。」


「なるほどなぁ。」


「ただ問題はレベル2とレベル3な訳。この差は本人だけでなく友人知人とか親戚とか、最悪近くに住んでるだけって理由で被害が拡散してしまうことだな。」


「まさに今回の事例だな。」


「実際問題、被害者は15歳~25歳の女性と言う共通点以外にないわけだ。」


「…恥ずかしい。」


「まぁ、「実はわたしにはお前の見えてないものが見えたぞ。」と言っといて、「犯人はオタクの変態だ。」って答えたお嬢は恥ずかしいでしょうね。」


「それに対して、「いや、むしろ15歳以下の被害者がいない時点で犯人のストライクゾーンは普通ですね。」って言い張ったお前も恥じらえや。」


 わたしはバンバンとちゃぶ台を叩いて講義するも以蔵は意に介さない。


「どこに恥じらう必要があるのか、と思うのですが、そこで俺の持っていた違和感の正体に気が付いたんだよ。」

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