第1話 切り裂きジャック―――第8節
「―――え?な…なに、何なの今の」
哀れな被害者担当の女性は突然目の前に現れた得体のしれないナニかと、突然の背後からのヤクザキックに混乱が収まらなかった。
「やぁお嬢さん、危ないところでしたね。大丈夫ですか?」
彼女の背後から一人の男性がそう言いながら回り込んできた。
男は黒い長髪かき上げながら現れたのであるが、こんな夜中なのにサングラスをかけていた。
女性はここにきて恐怖がぶり返してきた。
サングラスをかけた長髪のいかにもチャラそうな顔立ちの男であるが、スラリと背が高くスーツにネクタイとをカッチリと着こなしていた。
スーツはダーク、ネクタイも飾りっ気がない。
全身黒ずくめなその姿はサラリーマンとは思えないが、かといって御通夜帰りの慣れない服を着ている男とも思えない。
何より立ち姿がどこか普通の人とは違って見えるのである。
具体的かは分からないが、例えるなら体の軸がずれているように感じてしまう。
女性は立て続けの異常に何を言ったらいいのか分からなくなっていた。
体が小刻みに震え、すくんだ足からは力が抜けて地面にペタンと腰を落としてしまう。
それを見て、明らかにカタギとは思えない男が彼女に手を差し伸べてきた。
「これはすまない。驚かせてしまったようだね。ここは一言「志村ぁー!後ろぉぉぉぉぉぉぉ!」って声をかけてからにするべきだったかな。」
「―――――――――へ?」
人間、異常事態が続いて状況の理解が追い付かなくなると頭ん中が空っぽになるモノなのだ。
そして彼女もそういう状態だった。
「ドリフかぁー!」
スッパーンと突如現れた少女が男の頭をハリセンでひっぱたいたところで哀れな女性は意識を遠くへと飛ばしたのであった。
※※※
「あの女性は待機している警察の方に保護してもらったわよ。」
哀れな被害者役の女性は怖い思いこそしたもののなにかしらの被害を被ることなくこの夜を超えることができた。
しかし、彼女がオカルトに関わることはこれが最初で最後ではなかった。
今後、彼女はオカルト事件にかかわるたびにこの夜のことを思い出すだろう。
「ドリフって何だったんだろう~?」と。
まぁそんなこんなで被害にあう前に女性を助けたのは有坂 美香と長谷部 以蔵の2人だった。
美香が女性を警察に預けている間に以蔵は犯人の「切り裂きジャック」と呼ばれるようになったオカルトを逃がさないように公園に仕込んでおいた結界の起動を行っていた。
「逃がしてないよね。」
以蔵に合流した美香の問いに獰猛な笑みをもって答えが帰ってきた。
「あったりめぇーだろ。しっかりと檻の中に取り込んだのを感じているぜ。―――ほぉら、向こうさんも逃げずにやる気満々だ。」
以蔵の視線の先、一際濃い暗闇の中から異形が蠢いている。
「それじゃぁ次、行ってみよう。」
「だからドリフはもういいって。」
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