第1話 切り裂きジャック―――第5節

 本場のブリテンスタイルを思わせる内装に、シックなロングスカートのメイドたちを従えた男がいる。


 コレでも一応日本のヤクザ業界で顔が効く男である。


「お嬢の気持ちは理解できました。我々としてもお嬢の志を支えたいとは思います。」

 

テーブルに肘をつき組んだ手の甲の上に顎を置く、通称「立木スタイル」にて眼鏡を光らせながら対面に座っている私を見つめてくる。


「おいおい、富雄さんよぉ。アンタがいくら有坂組、いや今でこそ新生の有坂組の顔役だからってお嬢をないがしろにするなら黙っちゃいねぇぜ。」


「以蔵、落ち着け。」


 わたしに付いてきた保護者兼護衛の長谷部 以蔵がいきり立ちガンを飛ばすも、対面の富雄は顔色一つ変えずに口端を釣り上げてこう言った。


「別にお嬢にいかがわしいことをお願いしたいわけでは無いのですよ。我々は新しいヤクザとなってからはをモットーに商売しているんですよ。誤解しないでください。」


「誤解だぁ~。お嬢が頭下げに来たらこれ見よがしに交換条件出しておいてなぁにぃがぁ~健全だぁ~。」


「以蔵、お座り。」


「お嬢、俺は別に漫画見たいに呪いをかけられてるわけでは無いんですからそう言われておとなしく引き下がったりしませんぜ。」


「……いやいや、これは見事に手なずけておられますな。…………ホントウニ見事なお座りです。」


「さて、富雄。わたしは本気でこの国の変革とオカルト使いの為の公的機関の設立を考えている。その為に最初にお前たちの力が必要であることも承知している。その交換条件を飲もう。」


 私の宣言にそれは分かりやすいほどの笑みを富雄は浮かべたのであった。


 ※※※


「いやぁ、お嬢の髪はホント美しい。カラスの濡れ羽色と言う言葉を如実に表したるごとき美しさ。長く伸ばされているのにどう傾けても均整を崩さぬ美しい毛先。」


 富雄の指がわたしの髪に触れないギリギリで撫でまわすしぐさをする。


「肌もきめ細かくて、これが若さと言う奴ですか?」


 頬に掛かる息は今にも嘗め回されそうでビクビクする。


「しかし、胸の成長はかんばしくないですねぇ。いいエステ紹介しましょうか?」


 放っておけ。


「ほぉら、その勝気な吊り目で皆さんに居自己紹介をしてくださいよぉ。これもぉみぃんなお嬢が望んだことじゃないですかぁ。」


 薄暗い室内。


 集められた10数人の男達。


 ここでわたしは自分の夢を叶えるために富雄の言う交換条件を全うしなければならない。

 もはや逃げることはできない。

 これはわたしが決めたことで以蔵の助けも求められない。


 男たちの視線がわたしに集まる。


 誰もかれもが期待に目を光らせて今か今かと待ちわびている。


「さぁ、恥じらいはいりません。ありのままの自分をさらけ出してください。」


「やぁやぁやぁ、我こそは有坂 紅鎧の孫娘たる美香ってぇもんだ。これよりは大和の国の安寧を守る有坂組の頭を張って、生末は全国のオカルト使いを束ねてはこの国に革新をもたらす女だてらよ。まだまだわたしは若ッちい身空ながらも、ここに集うは祖父の代よりの漢ども。わが身可愛さよりも子や孫が可愛い野郎どもならこんの小娘にいっちょ付き合うてくれや。」


「「「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。」」」


「いっちょ全国取りに行くぞぉぉぉぉぉぉぉ。」


「「「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。」」」

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