第1話 切り裂きジャック―――第3節

 さて、ここで説明しておかなければいけないが、私と以蔵は同じ屋根の下で暮らしている。


 と言うのも以蔵はワタシにとっては保護者だからである。


 10年前に起きたオカルトハザード事件において善良な一般市民であった私の両親は命を落としてしまった。

 わたしはそのあとに御爺様に引き取られて何不自由なく暮らすことができたのだがそうもいかない者たちが居たのが事実である。


 御爺様はその私と同じ境遇の子供たちの為に孤児院を設営なさっていたらしいのだが、以蔵はその孤児院で育った子供たちの一人だそうだ。

 以蔵と御爺様の間には私の知らない信頼関係があったらしく、孤児院の子供たちの中でも以蔵は特別で、御爺様は亡くなる前に残される私の保護者、後見人として以蔵を指名していたのである。

 以蔵には私の財産の管理をはじめ私生活においても面倒を見ることが求められていたため、あろうことか御爺様の残した屋敷に一緒に住むことになったのである。


 以蔵マジ有能。我が家に一台あって大満足である。


 とりあえず、掃除洗濯に風呂の準備と何でもこなしてしまう。

 いつも私に付きっ切りのはずなのにいつの間にか済ましてしまっているぐぅ有能な保護者である。


 マジで我が家に一台あってよかったと思えるんですけど。


「お嬢ってほっとくとごみ屋敷に沸く虫みたいになりますもんねぇ。」


「その例えはうら若き乙女に対して失礼過ぎないか!」


 まぁ、そういう面でも便利だったのですけど、以蔵にはもう一つの顔があった。

 それが玄人プロのオカルト使いの顏である。



 10年前に起きたオカルトハザード。

 それはわたしや以蔵の家族だけでなく多くの人命を奪った事件である。

 その詳細は公表されていないが、科学で何でも解明しなければ気が済まなかった時の権力者がオカルトに挑戦して失敗したというのが通説である。

 その事件の後にはそれまで存在が疑問視されていたオカルト現象が多発、多数の被害届が出るもののオカルトの域を出ないと国は取り合わなかった。


 そんな中で立ち上がったのがオカルト使いであった。


 彼らは俗にいう霊能力者や超能力者などと呼ばれていたものだが、これらオカルト事件に対し積極的な解決を挑み成果を出したのである。


 しかし、政府は公的にオカルト事件を認めないために彼らを詐欺師などとして扱い弾圧した。


 それでも公的組織は多発する事件に対処できないものだから次第に民意は離れていき、オカルト事件に対して街の治安を守るオカルト使いを守ってきたヤクザなどが社会で支持されてしまう結果になった。


 これに対してようやく国はオカルト使いの公的立場の証明を行いオカルト事件に対策を講じ始めたのだが、すでに民衆からの支持はなく、オカルト使いも国への帰属を望まぬものが多いためいまだに公的にはオカルト事件には対処が難しいのが現状だった。



「俺は親分に対しての借りもありお嬢の生活には最大限尽くすつもりでいるがよぉ。よぉはダチの敵を討ちたいから力を貸せ―――ってなら二つ返事でしたがねぇ。―――お嬢自らが出張ろうって言うんですかい?」


「だってオカルト面白いじゃない。」


「遊び半分で首突っ込んでいいもんじゃねぇんですがね。」


「わたしがオタクなのは認めるけど、それを玄人に育て上げるのが貴方への頼みよ。」


 しかたねぇなぁ~、と呟いた以蔵は天井に向けてタバコの煙をドーナッツみたいにして吐き出した。

 わたしはそれを見て食べかけのドーナッツを思い出して手を付ける。

 時間がたっているはずなのにドーナッツとコーヒーは程よく温かいままだった。

 以蔵、マジ有能。

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