第1話 切り裂きジャック―――第2節
ソノ男は先ほどまでの執事のような雰囲気はどこかに行ったのか、まるで筋ものであるかのような空気を隠そうともせずに私の対面の席に座っている。
いや、実際に筋ものなのだが―――
その座り方にしても主人を前にしたものではなく、相手を威嚇することを第一とした見ていて怖い恰好で、である。
場所はワタシの部屋である。
テーブルにはドーナッツとコーヒーが用意されているのだが、私はそれを一度置いてから対面の席に着いた男を睨む。
ちなみに我が家は純和風の家屋である。
部屋も畳敷きであるが、私の趣味で座布団ではなく大きなビーズクッションが使われている。
そのビーズクッションに座った以蔵は煙草をふかしながら私に語り掛けてくる。
「で、お嬢。もう一度聞かせてもらいましょうかぁ。」
「最近この辺りで通り魔事件が起きているのは知っているでしょう。」
「とんとニュースにはなっておりませんが、俺の耳には聞こえてくる話ではありますね。」
「人による事件なら警察も躍起になって捜査してニュースになっているはず―――」
「しかしそうならないのは警察では手に余る事件だから。つまりはオカルト事件だってことでしょうね。」
「オカルトハザードから10年の時を過ぎて、国の対応が後手後手に回ってきたことが明るみになってきた。オカルトが世間に認知されてからも国の対応は遅れていることは知られているけど、国がオカルト対策に対応できていないことを隠すため数多くの事件が事故扱いで済まされている現状を知っているでしょう。」
「そのために反社会組織、分かりやすく言うとヤクザがそういう対策で成功したために各地で復活してきてますよね。」
タバコの煙をふかす以蔵であったが、決して私に吹きかけることはない。
わたしがタバコ嫌いだからである。
それを解っているからだろうからいつもはワタシの前でも吸うことはない、のだが、それをこのように目の前で吹かすのは事がそっちよりだと暗に示しているのだろう。
「実際、御爺様はヤクザであったけど社会の変化に合わせて引退として、組員も地域に根差した社会の一員として貢献してきたわ。」
「あぁ、親分のやり方はまさに大成功だった。だからこそ、お嬢の生活は安泰なのでしょう。」
それを壊す気か、そう言っているのである。
「ソレは事実ではあるな。私自身が安穏と暮らしていくには何の不安もないような環境に居ると言える。でも、多くの人達はオカルト事件の不安におびえながらも国に頼ることもできずにいる。わたしはそれを変えたい。」
わたしはもう覚悟を決めていると目で語りかけてやった。
「ふーーーぅむ、言うは易しですが具体的にはどうするつもりですか。」
「警察とウチにはコネがあるでしょう。オカルト使いの公的機関の設立のための実績をこちらで受け持つから、公的な後ろ盾を用意させなさい。」
「いやいや、公的な後ろ盾が通ったとしても実際に力を持つものがこちらにつくか?―――むしろ敵対しませんか。」
「ソレはむしろ願ったりかなったりです。それこそ仁義を通してそれらしく傘下に収めれべば良いだけでしょう。」
「……無茶苦茶ですよ。」
以蔵の顏が引きつるのも分かる。
今の警察ではオカルトが絡むとヤクザなどにはからっきし弱いのである。
それゆえにヤクザは今力を取り戻してはいる。が、それでも昔のような任侠者は少ない。
だからこそそういう奴らをたばねて社会の為に、仁義の為に、任侠者を一つはらないかと言うのが伝わっただろうか
「今バラバラでやっていることをみんなでやろうと言うだけですよ。貴方は面白くありませんか。」
「ふむ、面白くはありますね。いいでしょう乗ろうじゃないか。」
「あなたならそう言ってくれると思ってましたよ。」
短い付き合いながらもこの男の気性は分かってきているつもりだ。
身内には甘いが敵には苛烈、扱いを見誤れば火傷では済まないが、私はこれに人生を賭けよう。
「と、いう訳で、わたしの敵討ちついでにオカルト使いの腕をご教授くださいな。」
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