第53話 湖底トレジャーハンティング

 琵琶湖は世界第3位の古代湖、400万年前三重県上野盆地で誕生。そして北上し、40万年前から現在の位置にある。

 ならばその湖底には、悠久の時の流れの中で宇宙からの飛来物が眠ってるはず。

 例えば隕石、100年に1個落下したとしても、4000個存在することとなる。

 また1978年には、ゼロ戦(旧日本海軍の零式艦上戦闘機)が引き上げられた。


「まさに琵琶湖の底には時空を超える宝が眠ってます。ここにボランティアで参集頂いた皆さん――湖底トレジャーハンティング――その活動を開始しましょう」

 京津大学の七津星光ななつぼしひかる考古学教授から20名ばかりの参加者に力強く宣言があった。


 蒼斗あおとは独身サラリーマン、恋に落ち、そして身を固めたいとも思う。だが未だ一家を構えるほどの甲斐性はない。

「アパートとオフィスを行き来するだけの毎日、こんな無味乾燥な日常から抜け出したいなあ」

 こうぼやく日々が続いていた。


 そんなある日、ボランティア募集の案内を見つけたのだ。それがなんと、古代湖の底を一緒に発掘してみませんか、だった。

 この瞬間、蒼斗に神が降りた。

「オッオー、これぞ究極の非日常、やってみたかった事は――、これだ!」

 結果、七津星教授のパワフルな言の葉に最前列から大きな拍手を送ることとなったのだ。

 その後質問時間に入り、蒼斗は手を上げた。

「教授、いや隊長、ある日翼長10mの翼竜ケツァルコアトルスが湖上で失速し、落下。つまりその化石、見つかる可能性ありますか?」と質問した。

 これに七津星隊長は「その翼竜は時代がもっと古いので可能性はないでしょう。だけど地球を訪れた空飛ぶ円盤が湖上で墜落し、底に今も存在する可能性、それはありますね」と親指を立てた。

 これに蒼斗は思わず、「ブラボー!」。


 かくして湖底トレジャーハンティングはスタートした。

 具体的には毎週日曜日、中型ボートで湖上へと繰り出し、水中ドローンを使っての湖底ローラー作戦。

 しかし夏は猛暑、冬は極寒、波の高い日は沈没の危険。こんな自然環境の中でただただモニターを見続ける過酷な作業だった。

 1年が過ぎ、夢もロマンも消え、とどのつまり二人だけのチームとなった。

 それでも蒼斗は、湖底に空飛ぶ円盤が横たわってるぞと親指を立ててくれた七津星教授の言葉を信じ、頑張るしかない。


 季節は秋、湖に碧い空が覆い被さり、その光たちが湖面に突き刺さる。そのせいか、とてつもなく水が澄んだ日があった。

 視界良好だ。


 今日の漁場は?

 1917年、竹生島ちくぶしまから北へ2kmの水深70mから土器が発見された。そこに葛籠つづら尾崎湖底遺跡があった、とかの謎が今も解けてない。

 ならばこのミステリーの続きで、竹生島から南西5kmの最深部100mの辺りを探ることとした。

 二人作業だが順調に進んだ。

 そして遂に発見したのだ、自然物でない何かを。そこで高頭脳水中ロボットを潜らせた。


 結果、物体は90%を湖底に埋没させているが、解析により径60m、長さ100mと巨大、形状は卵形。

 表面成分はセラミックと金属、多分チタン系であろう乳白色融合物、二人はこのような物質を見たことがない。

 驚愕仰天だ。

 湖で頭を冷やした後、蒼斗が「これって、空飛ぶ卵ですか?」と訊く。

「いや、宇宙大翼竜の卵かもな」と七津星隊長も混乱している。あとは唾をしきりに飲み込み、「これは二人の秘密にしておこう、こんなの発表したら世の中大パニックになるぞ」と。

 蒼斗は深く頷くしかなかったのだ。


 この大発見から半年が経過、湖岸の桜が咲き誇ってる。

 そんな日に蒼斗はボートを操縦し、湖底の巨大卵の確認にやって来た。


 一体あれは何?

 疑問は膨らむばかり。いつものように水中へと視線を送る。

 だが今日は違った。どんどんと泡が吹き上がってくる。

 何?


 さらに覗き込むといきなり潜水艇が浮上。それからピットが開き、出てきた水兵さんが蒼斗に格好良く敬礼。

「女王様からのお言葉です。あなたの一途さが気に入りました。我が宇宙移動竜宮城に招待したい、なぜならここに100年滞在しました。されどもそろそろお暇の時期。そこで我がDNAを地球に残すため、君に良い嫁御を紹介したい。そう仰られてます」

 こう述べ、手を差し伸ばしてきた。


「えっ、星から星へと移動する、竜宮城」と蒼斗は目を丸くし、「その上に、妻を、って」と呟き、あとは絶句。

 どうしようかな、……、ここは隊長に相談するしかない。

「卵は宇宙移動竜宮城でした、それに嫁さんを紹介してくれるらしいです」とライン。

 すると隊長から「時空を超える竜宮城だったのか、蒼斗、行ってこい、まさにこれぞ湖底トレジャーハンティングの醍醐味じゃ!」と返ってきた。


 そしてすぐさま追伸あり、――「私への金銀財宝の土産、忘れるなよ!」と、さ。



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