第51話 七不思議の庭

 時節は晩夏、だが暑い。仕事帰りの私は居酒屋で生ビールでもと足を向けた時、角にある旅行社の看板が目に飛び込んできました。


 七不思議の庭・けったい園が公開の運びとなりました!

 飛鳥時代に造られた池泉式ちせんしき日本庭園、先人たちはその美に魅了されてきました。

 されども庭内で多くの者が神隠しに合ったため、ここ1世紀の間封印されたままでした。

 朗報です!

 時代は令和、科学の進歩により神隠しが解明されました。

 よって当旅行社、ウィズユーは、マンネリを打破したい貴方のためにびっくりプランをご案内させていただきます。

 お待ちしてま~す。


 私は三つの『キ』、元キ、驚キ、ときめキに滅法縁のない冴えない独身サラリーマン。だがここで濁音の『ギ』、不思ギに前頭葉が発火し、ドアを押してしまいました。

 すると3つ年上の姉貴のようなスタッフが現れ、「ようこそ、私がウィズユーのアネ心よ、さっ、ここにサインしてチョンマゲ」と、私はアンタの味方よ的に微笑んできてくれたのです。

 サラリーマン歴10年、まるでうるめの干物のような風貌となってしまってる私、不覚にもお姉ちゃんに……、ホッ!

 結果、野郎のイキオイで、sign-up。

 あとはトントン拍子で、10日後にアネ心のガイドで観光となりました。


 七不思議の庭・けったい園は魔界山の麓にある。

 深山からの雪解け水を落とすいくつかの滝、そのせせらぎは大きな魔物池へと流れる。その周辺には苔岩が並び、それらを木々や竹が覆う。だが決して窮屈ではない。なぜなら所々にほっとさせる万葉の野草、紫草むらさきが自生する透き間がある。

 オッオー、これぞ究極の庭ぞ!

 いやとんでもない、もっと凄かったのはやっぱり七不思議。散策しながらアネ心が滔々と説明してくれました。


 一の不思議は、池に泳ぐ鯉たち。それらにはじっちゃん、ばっちゃんもいる、ご先祖様方の人面魚。なぜ? だけどお久しぶり~!

 二は、梅林を流れる細流、ちょっと飲んでごらんと勧められ――、なんと梅酒ごわす。

 三は、池の向こうに凜と立つ一本桜。薄紅に満開だ。あれ、今は秋。なぜ? アネ心によると、この世に1本しかない『年がら年中桜』だそうな。まさに奇跡!

 四は、散策道を雉のような鳥が一直線に走ってる。これを10回繰り返しやっと離陸。だがすぐに墜落。あいつは始祖鳥よと。飛翔はまことに下手くそでした。だが妙ちきりん!

 五は、ご婦人が野点。休憩にと一服、そして謝辞のため拝顔させてもらうと、背筋がゾォー。お岩さんでありんした。合掌!

 六は、竹藪に黄と黒の縞模様の小動物が。私がトラネコだと言うと、あれはこの庭に生息する古代肉食獣のニワ虎だと仰る。じゃあ、あそこにいるにわとりは、古代のニワ鳥? まことに奇々怪々!

 一応ここまでは順調でした。


「さてと、七つ目は神隠しですよね」

 私が確かめますと、アネ心は無言で岸辺へと進み、「この池は底なしで、宇宙へと繋がってるのよ」と。

 意味不明で私はポカーン、そのまま固まっていた時です、いきなり水面が吹き上がりました。そして現れたのです、七色に輝く直径30mはあろうかと思われる物体が。

 私は腰が抜けました。それを見てアネ心は「時空貫通カプセルよ、1万光年先のニワニワ星から今貴方のために到着したのです」となぜか意味ありげに見つめてくるじゃありませんか。

 しかし、突飛過ぎ!

 それでも私は気を静め、「光で1万年の距離を飛んできたって、どいうこと?」と訊きました。

 するとアネ心はまるで成績オール5の姉のような表情で、「弟よ熟考したまえ、空間は貫けます。ここに長さ10mの帯があるとする、それを巻くことにより端と端の距離は3cmになるでしょうが、宇宙空間も一緒、帯のように巻き上げて、厚み方向に時空カプセルで貫けば、ニワニワ星からでもすぐよ」と教えてくれました。

「そうなんだ」と私は単純に納得。


 そんな時に観光客がカプセルから降りてきたのです。

 しかしお嬢さんたちばかりで、ちょっと変。

 私が首を傾げてると、アネ心が娘たちに向かって、「婿探しご苦労様です。今日は野暮ったい地球の男一人で、ごめんなさいね。だけど得意技はあなた様への滅私奉公、お勧めだよ」と。

 え、えっ、どういうこっちゃ? 思考はカオス状態に。

 そんな時に、アネ心が「彼女いない歴ウン十年の弟君にはそこのしっかりさん、ヨメ心さんがお薦めね、さっ、地球を捨て、カプセルに乗ってニワニワ星に婿養子に……、行っちゃいな!」と私の背中をドンと押しました。


 それにしても恐ろしいことですね、男のハズミとは。

 ヨメ心さんが割にかわい子ちゃんだったもので、カプセルに乗っちゃいましたがな。今はニワニワ星に向けて銀河を貫通中です。

 そして気付きました、これが七不思議の庭・けったい園の神隠しだ、と。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る