第43話 スマホからのおくりもの

 ところで皆さん、スマホを愛用されてますよね。時々おかしなことが起こりませんか?

 私の場合は、触った覚えがないのにマナーモードになっていたり、着メロが変わっていたりとかです。その上写真投稿サイトなんかは、勝手にフォロワーとして登録されていたりです。

 おっと挨拶が遅れました、私、本間慎一郎ほんましんいちろうと申します。

 本日は最近私に起こったことを紹介させてもらいます。


 3年ほど前のことでした、前述させてもらったような、関西風に言えば、けったいなことが起こりだしたのです。なんでだろうと首を傾げる日が続いていました。

 そんなある日のことです、ネット通販からの宅配便が送られてきました。

 早速箱を開けますと、カメラが入っていました。それは高倍率ズームレンズ搭載の広角から超望遠までカバー出来、かつ高速連写可能な高級品です。

 元々欲しかったのですが、なかなかお値段が高くてずっと辛抱していました。

 これはひょっとすると私の心を鷲掴みするための『おくりもの』かな?

 いやいやそれはとても甘い、そんな人はこの世にいな~い、です。


 これは間違いなく間違いだ! と思い直し、差出人は一体誰だとチェックしました。

 おっ、とっ、とっ、とっ、これぞ驚き、桃の木、山椒の木!

 ぴょんと飛び出たメンタマで、確認した送り主、それは……、まさかの本間慎一郎、私自身じゃありませんか!

 しかもその住所は、このアパートの7号室、まさに私が住んでるところでごわす。

 ということは、私が私に送った『おくりもの』、ちゅうこと?

 しかし注文した覚えなんてない。

 されども現実に、高級カメラが目の前にある。これぞ奇々怪々。

 おいおい落ち着け、今は驚いてる場合じゃないぞ、一番の疑問は誰がこのカメラの金を支払ったかだ。ひょっとしてスマホが誤作動し、勝手に発注されたのかも?

 私は心配になり、メールとかをSNSとかを徹底的にチェックしました。しかし痕跡は見付かりませんでした。


 それでも納得できず、スマホをいじり回し続け、最後に簡単すぎてこの捜索から外していたメモ帳を開いてみました。すると、なんとそこに書かれてあったのです。

「思い切ってカメラ買ってやったぞ。それを使って、投稿の写真レベルを上げろよ。もし不満や質問があるなら、ここにメモれ、返答してやるから」

 なんじゃ、これ?

 私は今までメモ帳を使ったことがありません。

 それにしてもこの上から目線、とカッとなり書き込みました、「このクソ野郎、お前は一体誰だ?」と。

 するとすぐに返答があったのです、「俺はお前だよ」と。

 私はもうこの事態がさっぱり何なのかわかりません。


 だけどここは心を落ち着かせ、「お前は俺ということか?」と再確認のメモ書きをしてみました。すると即座に、「ああ、ご名答ぞ、俺はスマホに住むもう一人のお前だよ」と。

 さらにですよ、「カメラの金は、心配するな、お前の口座から引き落とされることになってるから。要はお前と俺は同一人物、ということはお前の金は俺の金ってこと、だ!」と追記がありました。


 これぞ怒髪天を突く、「スマホ在住の詐欺野郎!」と私は返してやりました。

 されどもですよ、目出度くこれまでの誤作動の謎が解けました。

 こいつがスマホ内で勝手気ままに遊んでいたせいでした。

 むかっ腹が立ちましたが、だけど心境は結構複雑。

 なぜならもう一人の自分がスマホ内に住んでいたからです。

 まっ、これも何かの縁、怒りを静め、これを機に、大袈裟ですがコイツと共に生きて行くことにしたのです。


 こんな成り行きのせいで、もう一人の自分からのおくりもの、カメラを使いこなしてやろうとマインドチェンジしました。

 これを知ってか、早速スマホ内のもう一人の私から望遠と高速連写機能を活用し、次のものの撮影に挑戦してみたらどうだろうかと提案がありました。

  1.魚を銜えたカワセミの水面浮上の瞬間

  2.ハヤブサの飛翔

  3.玉虫の飛翔


 いずれも撮影難度は高い。だけど挑戦意欲が沸々と。

 それから必死のパッチで、やっとハヤブサまでは撮れました。

 超難度の玉虫の飛翔はあと5年くらいはかかるかも知れませんね。

 それでも暗いサラリーマン生活からは脱皮でき、楽しい日々を送れるようになりました。


 こうなるともう一人の自分に礼を言わなければと、「一度顔を見せろよ」とメモ帳に書き込みました。

 すると「自撮りしてみろ」と返ってきました。

 早速腕を伸ばしてパシャリと一枚。これを見て、私は気付きました。

「この左右反対になってる俺が、スマホ内のもう一人の本間慎一郎なんだな?」とヤツに問うと、すぐに「その通りじゃ」とあり、続けて提案がありました。

「二人とも本間慎一郎じゃ、ややこしいだろ、これからは俺のことを慎二郎と呼んでくれ」と。

 ……

「うぬ、うぬ、うぬ、――、、ってか」

 私は思わずブフッと吹き出してしまいました。


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