第1話 宇宙から見た花火

「キャプテン、この星、空気もあり水もあり、我々の星によく似た惑星のようですよ」

「そうか、ラキアー、それじゃもう少し接近してみてくれ」

 時空貫通システムを使い旅をしてきた宇宙探索船、いわゆる空飛ぶ円盤は、現在月の辺りでホバリングし、地球をうかがってる。

 ラキアーたちが住む星は50年後に大きな隕石が落ち、滅びることが判明した。これにより移住できる星を見つけ出せとミッションを受け、1年前に宇宙空間へと飛び立った。

 移住できる星の発見、高度な知能を持つ彼らにとって、それはそう難しいことではなかった。生存可能な星はすでに白鳥座に発見済みだ。

 しかし、旅のおまけに……、とはいっても、白鳥座からの距離は600光年。それでも彼らにとっては少し足を伸ばした程度のもの、太陽系までやって来たのだ。


「キャプテン、このプラネットには我々のDNAと酷似した、そこそこの高等生物が生存しているようです。チキューと呼ばれてますよ」

 一等操縦士のラキアーはキャプテンにまずは簡単な報告をした。そして、「5分後には着陸可能ですが、どうされますか?」と次の指示を仰ぐ。

 するとキャプテンから「ラキアー、ちょっと待て!」と制止の言葉が返ってきた。その後、矢継ぎ早に――、「チキューのこの小さな島の何カ所かで、チカチカと煌めくものがあるぞ。もっと画像を拡大してくれ!」と。

 これを受け、中央司令室のスクリーン上にズームアップされた。


「キャプテン、これって一体何なんでしょうね。火山の噴火でもないし、ほぼ球状で赤や黄の……、いわゆる溶接の火花のようなものが飛び散ってますが」 

 ラキアーは目を丸くし、驚きが止まらない。

「さらに理解できないのは、連中がその周辺に集まって、なんと上向いて口を開けてますよ。これって未成熟な星で時々観察されるオカルト的な儀式なのでしょうか?」

 あとはただただ首を傾げるだけだった。キャプテンも同様、こんなフラッシュ現象を目撃するのは初めてだった。

「うーん、わからないなあ。ならば解明で、生物たちの会話をいくつかサンプリングせよ」

 キャプテンが指示を飛ばした。

 しばらくして、フォーカスされた群れの字幕付き会話映像がスクリーンに映し出された。


 会話: 群れAの場合

  メス : パパ、

      子供たちはテレビの方が

      良いんだって。

      暑いし、蚊はいるし……。


  オス : あ~あ、

      家でビール飲みたいよなあ。

      さっさと帰ろう。


 会話: 群れBの場合

  メス : これって……、

      帰りの電車、メッチャ混むわよ。

      どうしてくれるのよ、アンタ。


  オス : そうだな、

      さっさと帰ることにしよう。


 これらを目にしたラキアー、思考が余計に混乱する。

「キャプテン、ヤツらって不思議な生物ですよね。わざわざ指定された場所に出掛けて来て、空に飛び散る火花を眺め、帰ることばっかり考えてますよ」

「その通りだ!」 キャプテンの返事はこのひと言だけだった。

 理由は、この生物に論理的な振る舞いが見出せず、理解不能だったからだ。

 キャプテンはしばらく沈思黙考。その後にラキアーの肩に手をやり、ちょっと申し訳なさそうな表情で、「なあ、ラキアー君、よ~く聞いてくれよ、いいかい。本日ただ今より、このチキューという星に滞在し、このミステリーの調査を続行したまえ」

ラキアーにとって、これは青天の霹靂。

「キャプテン、それって転勤命令ですか? 嘘でしょ?」

「嘘じゃない。これは業務命令じゃ!」

 ラキアーはこの命に叫んでしまう。

「イヤダー!」


 ラキアーがこんな辞令を受け、泣く泣く赴任してから早3年の歳月が流れた。

 チキュー上のニッポンという小さな島に着任し、それと同時に名前をひっくり返し、アキラと名乗った。そして意外にも、赤や黄の火花が飛び散る島国で、今は割に機嫌良く暮らしている。

 なぜなら、すぐに可愛いチキューのメスと仲良くなり、どうもこのような特別なメスのことをコイビトと呼ぶそうだが、それができたとか。

元々は、なぜチキュー生物は論理的な思考や行動ができないのか、その解明をすることがラキアーの使命だった。

 だが今は、いわゆるチキュー用語で――メロメロ――状態に。

 こんな異常事態になっているラキアーのことをキャプテンは知らない。

 しかし、ラキアーの任期は満了した。そこでキャプテンは、夜空に火花が弾き飛ぶ頃に、ラキアーをピックアップするため空飛ぶ円盤に乗って出掛けてきた。


 ここでまずは上司として、部下がチキューでどう暮らしているかが気に掛かる。

 早速、こそっとラキアーの行動や会話をチェックしてみると、赤や黄、そして青色の火花が煌めき、花咲く下で……、ラキアーはチキューのメスとこんな会話をしているではないか。


 メス  : アキラ、宿しちゃったの。


 ラキアー : えっ、そうなの。

       大事な身体だから、

       こんな所にいたらダメだよ。

       さっ、早く帰ろう。


 映し出された映像の中のこんな字幕を読んだキャップテン、「何が宿ったんだよ?」とさっぱりわからない。というのも、この星人たちの命は生命工場で誕生するからだ。

 その上、「ラキアーのヤツ、ヤケに慌てて、さっ、帰ろうって? チキューの生物は赤や黄の火花を見たら、いつもすぐに帰ろうって言うんだから。ラキアーは郷に入っては郷に従い過ぎて、ホント摩訶不思議な生物に劣化してしまったのか」

 キャプテンは肩を落とし、ラキアーをもうチキューに残留させるしかないと判断した。


「ラキアーよ、これからも火花を見ては、さっ、早く帰ろうと言って、チキューのメスとともに幸せに生きて行けよ」

 キャプテンはこう言い残し、時空を貫き去って行った。

 そして、その後の夜空には、チキューの生物にとっての未確認飛行物体、UFOを見送るように、いくつもの大きな火花、いや、花火の輪が、――、色とりどりに、これでもかこれでもかと眩しく花開くのだった。



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