超短編物語集 やまぶどう

鮎風遊

はじめに

 古くから日本の山に自生するやまぶどう、それは他の樹木につるを絡ませながら大きくなり、初夏には淡緑色の小さな花を咲かせます。そして秋となり、五角形の葉を色づかせ、いくつもの黒紫の丸い実をつけます。

 小さく、ころころとした果実、実に甘そうです。1粒摘まんで、味わいたい。


 しかし、これがなかなかのくせ者なのです。

 今年の夏は暑かった、だから甘酸っぱくて、おいしいはず。確か去年、この木から摘まんだ1粒はうまかった。だから今年もいい味してるはず。

 これらの予想はまったく当たりません。


 甘いか、渋いか、それは気候の善し悪しや過去の実績とはなんの因果関係もないのです。

さらに一房の中でさえも、それぞれのテーストは微妙に違います。言ってみれば、やまぶどうの1粒の味は神のみぞ知る。口に入れてみないとわからないという、まことに不可解な植物なのです。


 一方、小説も同じこと。とにかく読んでみないとわかりません。

 そこで今回、小生の方で、今まで書きためた中から、読者にとって美味であって欲しいと願う幾粒かの物語を勝手ながら選んでみました。

 みな様にとって、ひょっとすれば、酸っぱい、苦い、そして渋いと、いろいろな味が混在してるかも知れません。


 しかし、ここはまず1粒を、どこからでも摘まみ上げていただき、食してもらえれば幸いです。そしてそれがもし許される味ならば、もう1粒と……。


 かくして、やまぶどうの超短編物語集が読者のみな様にとって、味わい深いものであることを心より願っております。



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