第7話 不幸中の偶然


「特にこのエプロンのポケットはよく考えられているね。私はスーパーの青果部で長年仕事をしていてね、エプロンのポケットに色々な野菜くずが、玉ねぎの皮やら何やらが入って、洗濯するときに大変だった。でも上向きじゃないこのポケットなら、ごみが入ることもない。最近の若い人はアイデアがあるねえ」


感心してくださったのはうれしいが、とにかくまずは

「私は裁縫は素人なので、売り物にするなんてできませんよ、きっと」

「いやいや、私も見ているけれど、布の色の合わせ方がとってもきれいだよ、見ていて楽しい。広い大きな布は高いけれど、はぎれは安く手に入るから、それを可愛らしく作っているね」


 作業用のエプロンは、そうやってつぎはぎで作って楽しんでいることが多い。


「どうかね? 」

「はあ、ちょっと主人と相談いたしまして」


とエプロンを受け取り、ちょっと深すぎるほど頭を下げて家に戻った。

「売り物? 冗談!! でもとにかく無事に帰ってきてよかった!! 」

ちょっと泥が付いてしまったので、再洗濯行となってしまった。



「ああ・・・大家さんには色々お世話になっているしなあ。とにかく一着だけでも出してみたら? 」


「そうね・・・断りづらい・・・」

評価されてうれしいとか、そんな気持ちは少なくて、とにかく「お世話になっているお礼」の気持ちで引き受けることにした。


「売れ残ったら、私が引き取りますので」

「いえいえ絶対に売れますよ」

この大家さんの娘さん、年齢は私の母と同じくらいなのだが、想像以上に「敏腕」な方だった。商売を続けるというのはやはり簡単なものではない。彼女たちの先祖だって、元々土地を持っていたわけではないだろう。自分の努力の結果としてそれを得て、代々守り続けてきたはずなのだ。その血を色濃く受け継いでいるのか、行動力も、感性も、人脈も持っていた。


「ほら! 売れたでしょ! 」


ちょっと斜めポケットのエプロンは評判になり、そう難しくはないので、すぐに類似品が出回り始めた。


「ああ、これで辞められる」

と一安心したが、速攻にこんな声が聞こえ始めた。


「素材がとても良いものを使っていらっしゃるんですか? 他の物よりなんだか着心地がとっても良いですね」


「それはそうでしょう! 素肌で試しているんだから! 」

一部の人が私の事を先生と言い始めて、「それは止めてください」と言っている中、そう思った。

私は売り物にするエプロンも一応そうやって確かめていた。もちろん試作品でだが、素材や、その染料で肌が荒れないかを確かめるためだった。


「本当に良いものは素肌に着けても心地よい」


それを教えてくれたエプロンもあった。実はリサイクルショップで見つけたのだけれど。





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