第4話 自由が故の危険
エプロンを作るのが何故楽しいかと言うと、それを身に付けた時にすぐに良しあしがわかるという点だ。私の場合要は、弱い肌に直接、になるのだから、そこを一番考慮しなければいけない。だからウエストの部分が違った造りになっている。胸当てと腰回りの部分を縫う場合、普通なら布の縫い代を内側にするのだが、私の場合は「当たって痛くなる」場合もあるので、外側に出している。そしてそれを隠すためにベルトの様に紐が付いているという具合だ。まあ、それほど大した工夫ではないけれど、とにかく私自身が気持ちよくというのが何よりなので、当たって痛いボタンもない。
また念入りにしていなかったポケットの糸の始末で、夫の爪に糸が引っかかったこともあり、そこも丁寧に仕上げるようになった。
だが私の腕が上がるにつれて、それだけでは徐々にすまなくなっていった。
夫はいろいろな事をエプロンに要求してくるようになったのだ。
「たまには割烹着はどう? 」とか
「このフリルはもうちょっと短めの方が良い」とか。私はもちろん炊事用のエプロンも制作するようになったのだが、
「本物のエプロンいいな・・・・」というので、ちょっとためらったが、使用後、またそのエプロンで炊事をしていると
「え! そのエプロンでご飯を作るの! 」
と半分自分も疑問に感じたことを言ったので、このエプロンは格上げなのか格下げなのか、どちらともつかない運命になった。
そうして極めつけな夫の一言がついに出てきてしまった。
「ポケットの位置、というか向きというか・・・それがどうにかならないかな? 」
想像は付いた。
「つまり・・・ズボンのポケットのように斜めにならないかって事? 」
「大正解!!! ほんのちょっとだけど手が入れ辛くて」
まあまあエロティックなその言葉は、何故かまっすぐなLEDライトのように、私の自称「秘密のエプロン職人」の意識だけを照らした。
エプロンのポケットというのは大体腿のあたりに一つか、左右対称、もしくは胸の中央に一つだけしかついていない。ちょっとハンカチを入れたり、急な食材の買い出しのためにメモや小銭入れを入れたり、という程度のものだ。だから本来は外付けで十分なのだ。
しかし例えば、ズボンのポケットのように、長時間財布や鍵などを入れる場合は、耐久性がいるため、ポケット用の袋を作り、その口の部分の布をカットして付けて、周りを補強しながら縫うことをしなければならない。
そのころの私は、エプロン作りが好きなものの、さすがに「ちょっと新しいことにも挑戦したい」という意識も芽生え、また
「エプロンにしっかりしたポケットを付けるなんてほとんど誰もしない事」が何よりも魅力的に思えた。
「やってみる!! 挑戦してみる!! 」
「そう! 頑張って!! 」
しかし、薄い布で補強するのはなかなか難しく、失敗しながらもなんとか出来上がった時には、本当に一番最初の感動が同じように味わえた。
「さあ、後はこれを洗濯して」
といつものように新しいエプロンを洗濯機にかけながら、天気も快晴で夕方には乾きそうだと、最高に喜ばしかった。しかし私はマンションのベランダでそのものを干す手が止まってしまった。
「このエプロン・・・見られたらどうしよう・・・」
私としては「考えすぎ」で片付けられないことだった。
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