第3話 コモドオオトカゲに失礼


 それからすぐに二人で色々なミシンを見て回った。

カタログを集めて、会社帰りの夫と待ち合わせたこともあった。

「凄いね、ここまで進化しているんだね」と二人で感心して見ていたが、最終的には近所の手芸店だった。


「今はほとんどが電動ミシンなんです。ですがどうしてもパワーが無いので、色んな生地を縫いたい、長い間使いたいという場合には、ちょっと大き目のものが良いです」


店員さんのセオリーとしてまずは安い物を勧めて、それから高い物の良さをアピールする。お手本のような人だったけれど、でもそれが決して嫌な感じではなかった。だから正直に言うことにした。


「エプロンを作りたいんです、今まで学校でしか使ったことのない初心者で」

「そうですか、それならば」とメーカー品のいわゆる「型落ち品」を勧められた。だから値段が安い割に機能が充実していて、お店側も早く処分したい、私も安くて良いものに越したことはないので、それにすることにした。


「これならば、子供さんの入園グッズもすいすい作れますよ」

と現代社会の普遍的一言は、私のうしろめたさに、明るい未来のシャッターを下ろしてくれた。


「へえ、いい物買ったじゃないか」


と夫の喜ぶ様子に喜んだのも束の間、ミシンの糸の通し方も完全に忘れ去り、何とかできて試し縫いしてみたら、夫の方が上手いという結果になった。

そう言えば私は中高と、家庭科の成績はまるでコモドドラゴンのように地を這っていたのだ。料理は一人暮らしをしているうちに自然にこなすようになったが、針仕事は必要最低限しかしたことがなかった。


「きっと大丈夫だよ、ミシンが優秀だから」


手伝うつもりは毛頭なさそうだ。でもその方が私はやりやすいと思っていた。




そして数日後


「面白い!! 」


ミシンになれ初めて、私は本当にそう思った。あのデパートで見たエプロンに近い素材を買い、同じ布でちょっとフリルを作った。

そうして完成したものを見た時、自分ながら感動してしまった。

まず、何とか自分でできたことによる喜びと、あのエプロンを万が一買った場合の出費の事を考えると、素直に喜べた。もちろん夫も


「凄い! できたんだね!!! 」

それはそれは喜んでくれた。


それに私も答えるように

「もう一着作ろうかな、布も余っているし」


「賛成! スカート型でもいいよ! 」

とアイデアまでくれた。そして二着目に取り掛かった時、私は気が付いた。


「私は・・・エプロンぐらいまでで良いのかもしれない」


それはミシンを買ったものの、上手く使えず、友達に助けを求めた時だった。類は友を呼ぶで、彼女達も家庭科の成績は、同じコモドドラゴンだったのだが、しかし皆結婚して


「私、スーツ作っているの」という友人A

「子供の帽子を編むのが面白い」という友人B

「今家庭科のテスト受けたら、絶対に5なのに」という友人C


私も家事はそう嫌いではない。

つまり友人たちも私も大人になって「目覚めた」のである。またそれで生計を立てるわけではないので、作る楽しみを純粋に満喫できるのだ。

そうしてすぐに二着目ができると


「え! もうできたの? 」

「私、どうもエプロンを作るのが好きになったみたい」

「それはいいね!! 最高じゃないか!!! 」


主人と私二人の幸福は、きっとこの時が最高潮で、

その後は人生にはよくある

「思わぬ方向へ」と進むことになる。











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