第46話
「は……? ……えっ!?」
いや、ちょっと待って。これって一体全体、どういう事なっているんだ。目を覚ましたら身体が動かないって……相当に恐ろしい出来事なんですけど。
兎にも角にも事態を早急に把握したいところだが、寝起きの直後の頭ではどうにも理解力が通常時よりも低下している為、状況が掴めきれていない。
まぁ、通常時でも把握し切れる自信はあまりあるとは言えないが。というよりも、寧ろこんな状況に陥って冷静に判断を下せれる方がおかしいと思う。
実際にこんな目に合えば誰だってパニックになるだろう。異常事態に対応出来る奴が異常なんだ。絶対に普通じゃないと思われる。よって俺は普通の人間だと言えよう。
さて、それはさておき。まずはそんな理解力の足りていない中でも、現状がどうなっているかを把握していくしか手立てはない。
次の行動に移る為にも、早いところ確認していこうか。いつまでもこんな状態のままだと怖いしな。とりあえず手始めにだが、身体が完全に動かなくなっているかどうかを確かめよう。
もしも原因が金縛りとかにあっていたとかだったら、きっと指先であろうとも全く動かせないだろう。ただ、俺は金縛りにあった事が無いから、同じ状態に当たるのかどうかは分からないけど。
そしてこれに関しては直ぐに答えが分かった。指や手首だとか、そういった部分においては動かす事が出来たのだ。という事は今の俺は金縛りにあっているというのはどうやら違うみたいである。
だが、そうした部分を動かす事は出来ても、他は動かせないというのも分かった。もうどうやっても起き上がる事すら俺には出来ないのだった。
それから確認を取っていった事で、もう一つ分かった事があった。これに関しては自分で言うのもなんだが、大収穫と言える成果と思われる。
……まぁ、嫌な成果とも言えてしまうんだけどな。本音を言うと、これは知りたくはなかった。知らないでいたかったよ。覚めない夢の中にずっと居続けていたかった。
と、いうのもだなぁ……実は確かめている内に答えが分かってしまったんだ。俺が何で身体を動かせなくなってしまったのかという原因が。
悲しい事にそれは怪奇現象とかそんな摩訶不思議な事象という訳でも無く、極めて原始的な手段にて起きているというか……。
……そうだな。えっと、簡潔に言ってしまえばだな……。
俺は今、紐か縄かテープか何かでベッドにがっちりと固定されている状態だった。
しかも1本とか2本とかそんなイージーなレベルじゃなくて、幾重にも何重にも巻かれているハードモードである。あまりの本数の多さに、俺の心境としてはドン引きといった感じだ。
この状況はまさに、ガリバー旅行記に出てくる有名なあのシーンと同じと言えよう。……いや、あれって童話だよな。何で現実で同じ様な事が起きちゃっているんだよ。
そしてどう考えても自力での脱出は絶望的であると思えた。こんな状態、きっと奇術師とかじゃないと抜け出せないだろう。
「……一体、誰がこんな酷い事を……」
あまりの過酷な状況下に置かれたせいか、俺はついついそんな被害者染みた言葉を口にしていた。気分としてはドラマや映画の悲劇の人物的な感じか。
まぁ、現在進行形で被害者であって、悲劇の人物で当てはまっていてその通りなんだけど。
誰がとかそんなのは分かり切っている事じゃないか。そもそもの話、こんな事をしでかす人間は身内においては一人しかいない。彼女以外には考えられないのだから。
……とにかく、自力での脱出は不可能なので、この状況を脱する為には人を呼ばないと叶わない。
ただ、誰かを呼んだとしてもやって来る相手は決まっているのだが。しかもその相手、加害者で犯人なんだけどな。
けれども、背に腹は代えられない。俺が彼女を呼ばなければ、ずっとこのままなのだ。いつまでも固定された状態でいる訳にもいかないのだから。
それに、そう……このままだといつか限界がきてしまう。そうなったら色々とまずいのだ。社会的にとか……あと膀胱的な理由で。
そんな訳だから、俺は彼女に向けて助けを求める事にする。
「た、たすけてー。香花、おーい」
幸いにも首は動かせたので、俺は彼女の部屋がある方向に顔を向けてからそう叫んだ。ただ、大声で叫んでしまうと近所迷惑になるので、少し声は抑え目にして叫ぶ。
ちなみにだけど、大声を発して近隣の住人に助けを求めるというのも手段としてはあったが、こんな状況に見ず知らずの人を巻き込むのも可哀そうなので、それは避ける事にしたのだ。
俺が第三者の立場だったら、こんな状況は絶対に立ち会いたくは無いからな。……いや、当事者でもいたくは無いけれども。
そして俺の発した声に反応してか、隣の部屋から物音が聞こえてくる。恐らくはこちらに向かってきているのだろう。
多分だけどきっと彼女の事だから、俺が起きるのを待っていたのかもしれない。そうじゃなければ俺の声を聞いてから直ぐに反応は出来ないと思う。
それから待つ事10秒ぐらいだろうか……俺の部屋の扉が勢い良く開かれた。
「お待たせっ! おはよう、まーくん♪」
香花はそう言ってから無邪気に笑顔を浮かべ、部屋の中にへと入ってくるのだった。まだ着替えてはいないのか、服装は彼女がお気に入りのパジャマのままである。
「ねぇ、ねぇ。昨日は良く眠れたかな? どうかな?」
しかも第一声がこれであった。どこかで聞いた事のある様な言葉だったが、今はそんなのはどうだっていい。彼女は微笑みながら俺にへとそう語り掛けてきたのだった。
どうやら香花の中には加害者としての意識が全く無いのだろう。俺からは微塵たりとも悪いと思っている風には見えない。今の俺の状態に関係無く、彼女はいつも通りの感じに接してきているのだから。
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