第12話 嬉しいけど嫌。

 その日の放課後、B組のいつもの席に彼女の姿があった。それを見て、何故か少しだけ嬉しくなる。元気そうな様子で、友達と話しているのが見えて。


 何の話をしてるんだろ。


 楽しそうに笑いながら語り合う春川とその友人と思しき女の子。委員会へと向かって行った恋人の席につきながら、柚木は知らず聞き耳を立てる。拾う声は、少し低めの春川の声。その話の内容は。

 誰か、男子の話。

 軽く眉根を寄せる。

 なぜか少しだけ嫌な気分になった。違うクラスの男子の話。話しているのは主に春川の方。


 久々に来たと思ったら、そんな話。


 別に、誰がどんな話をしていようと、その人たちの自由なのだと分かってはいるけれど。でも。


 何だろう。めちゃくちゃ、嫌な気分。


 胸の奥がぐるぐるするような、おかしな気分。


「……寝よ」


 これ以上聞いても気分が悪くなるだけだと判断し、柚木はいつも通り恋人の机に突っ伏した。けれど。

 こういう時に限って、睡魔が訪れないもので。

 なぜか妙に拾ってしまう彼女の声を聞きながら、柚木は小さく溜息を吐いていた。

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