第11話 珍しいとは。

 どんな子だろうと、思うようになった。

 彼女、春川が風邪で早退した日は、案の定カーテンが閉まることはなく。戻って来た恋人が自分を起こすと同時に、夕日の眩しさに眉を顰めていた。恋人が少し驚いた顔をしていたけれど、仕方がないと思う。眩しいのだから。


「……今日はいるかな」


 あれから数日、春川は学校を休んでいた。先日声をかけた、恋人の隣の席の男子によると、近頃の治りの悪い風邪にかかってしまったらしい。少し心配だったけれど、そう思うことが柚木は自分で不思議だった。


 別に、友達でもなければ、話したことさえないのに。


 ただ放課後、同じ空間にいるというだけの女の子。自分が眩しそうにしているからか、わざわざカーテンを閉めてくれる心優しい女の子。

 まあそれも全て、自分の妄想でしかなくて。本当はただ彼女自身が眩しいからとか、そのついでに自分の所までカーテンを閉めてくれてるのかもしれないけれど。


 それにしても、毎回俺が身じろいだ時だし。


 そんな風に思ってしまうから、タチが悪かった。


「何、誰か待ってんの?」


 柚木の呟きを聞いたらしい翔がそう問いかけてくる。柚木は視線をそちらに向けた後、開いたままだった、先程の授業のノートに目を向けた。自分らしい、間延びした字がつらつらと書かれている。


「風邪引いて、休みの子がいて」


 だからどうというわけでもないけれど。

 翔はきょとんとした顔になった後、「へー」と言いながら笑っていた。その笑みの意味が分からず、「何」と呟く。

 翔は「いや、な」と口を開いた。


「秋野が誰かを気にするの初めて聞いたからな。しかも、そんな待ち遠しそうな顔で『待ってる』とかさ。珍しいと思っただけだよ」


 そう言う翔は、どこかほっとしたような顔をしていて。けれどその表情の意味も分からなくて。

 まあ確かに、誰かが学校に来ないからってこんなに待ち遠しく思うのも変なんだけれど。

 だから、何だと言うのだろう。

 そう訊ねようとしたのだけれど。


「じゃ、俺は部活だから!」


 そう言って早々に去って行く翔に声をかけることも出来ず、明日にでも訊ねれば良いかと思いながら、「おー」と言って彼の挨拶に応じた。

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