2‐5‐2 苦行

 試練八日目の朝。

 閉人、エリリア、ビエロッチの三人で朝食をとっている時の事であった。


「えーとですね、姫さん。懸命な情報収集の結果(嘘)、ジークマリアの弱点は『虫』だと分かりました。今日はマンモスちゃんを連れて行って、アイツがビビった隙に俺が骨を刺しに行く作戦でいきます」


 閉人が手をシュッと掌を横に振ると、五本の指の先から肉を破って血塗れの棘が飛びだした。

 よくよく見てみれば赤い中に白い艶が見える。

 節くれ立ったそれらは、間違いなく骨だ。


「どうです、カッコいいでしょう? 一晩かけて『無限骨肉戦争アバラ・アバランチ』の練習したんすよ。全身が凶器! ほら、手首からも出ますよ」

 肘から先の腕骨を伸ばして手首と肘の両方から突出させる。

 閉人は一際大きい棘を見せびらかす。 

 手首は肉と皮だけで繋がってプランプランしている。


「虫とか骨とか、食欲減退するっスね」

「閉人さん、痛くないのですか?」

「はは、全然痛いです」


 閉人は脂汗を浮かべながら骨を引っ込めた。


「まあ慣れっすよ慣れ。殺されまくってこれで四十二回目……だったかな? 痛みに身体が適応し始めてる気がするんすよね」


 閉人は元に戻った手をぐーぱー握りしめて感触を確かめた。


「という訳なんで、マンモスちゃんと作戦会議するために姫さん、アレをお願いできますか」

「はい、アレですね」


 エリリアは膝の上に乗せた魔導書グリモアに手を添え、懐から杖を抜いた。


「ランク五、魔術『街角超会話エルドラド・リトル』♪ マンモスちゃん、おいでー」

「ブンブーン」


 エリリアの魔術干渉を受けた魔虫マンモスちゃんが飛来する。

 テーブルの端にピタリと降り立ち、閉人の方をじっと見つめた。

 その圧は凄まじく、閉人は一瞬で平伏した。


「マンモスちゃん! いやマンモスさん! ジークマリア戦でお力を貸してください! ぶっちゃけ危ないっすけど! お願いできますか!?」


 閉人は体育会系の下っ端の如く下手に出た。

 たぶん自分とマンモスちゃんとだったら自分の方が下のヒエラルキーにいるだろうと何となく感じ取ったのだ。


「ど、どうすか?」


 閉人の額にまた汗が浮かぶ。


 マンモスちゃんは翅をブーンと鳴らす。

 声帯が無いので、『彼女』はそれで発声する訓練を受けている。

 そう、彼女は『彼女』であった。


「いいに決まってるじゃないの~水臭いわね~」

「へ?」


 困惑する閉人にマンモスちゃんは畳みかける。


「こんなオバチャンに気を遣わなくてもいいのよ~閉人ちゃん。エリちゃんにはお世話になったんだから恩返しさせて頂戴なぁ!」

「へ? え?」


 予想外のフレンドリーさに閉人は二歩退く。


(お、オバ☆チャンだ……ッ)


「マリちゃんがオバチャンのこと苦手なのはちょっと悲しいケド、これも虫に生まれついたサダメ。頑張りましょ、閉人ちゃん!」

「は、はい。お願いしまっす!」


 かくして閉人×マンモスちゃん同盟が結成された。

 閉人はマンモスちゃんを頭に乗せて、


「えいえいおー!」


 と、鬨の声をあげるのだった。



『第二の試練八日目:マンモスちゃん作戦』



 聖域にてジークマリアをけん制しながら閉人は、背中に張り付いているマンモスちゃんに合図する。


「よし、行ったるわよ~!」


 閉人の背から飛び出したマンモスちゃんに、


「ひっ」


 ジークマリアは驚いて動きを乱すが、


 ぺち。


「ぎゃッ!?」


 次の瞬間、ジークマリアの槍の柄がマンモスちゃんに命中していた。


「マンモスちゃん!」

「マンモスさんッ!?」


 マンモスちゃんが錐もみ回転して墜落した。

 節足をぴくぴくと痙攣させている。


 閉人とエリリアが駆け寄ると、マンモスちゃんは僅かに頭を二人に向ける。


「ダ、ダメじゃないの。閉人ちゃん……折角隙が出来たんだから攻撃、しなくちゃ……」

「でも、でも! マンモスちゃんがッ!」

「いいのよ……こんな……オバチャンのことは。気にしないで……もう子育ても終わって、パートで『妖精』ちゃんを手伝ってただけ、なんだから……」

「白魔術をかけてるから諦めないで、マンモスちゃん!」

「諦めないでくれ、マンモスさん」

「ふふ、若いって、ステ……キ…………」


 ガクン。

 糸が切れたように力を失うと、マンモスちゃんは動かなくなった。


「う、うおーッ!」


 閉人は両手から計十本の骨棘を出してジークマリアに挑むが、


「待て閉人、今のは反射的に手が出てしまっただけで」

「うるせぇ」


 ジークマリアは弁明するが、閉人は聞く耳を持たない。


「ちっ」


 ジークマリアの貫手が閉人の胸を貫き、胸骨と心臓を粉砕した。


「ごぺぁッ!」


 閉人、四十三回目の死であった。



 †×†×†×†×†×†×†



 閉人とエリリアは思わぬ喪失に沈んでいた。

 その様をビエロッチは森酒を飲りながら眺めていた。


「畜生アイツめ。マンモスさんを……」

「ごめんなさい、マンモスちゃん……」


 二人共がっくりと頭を落としていた。

 まだ、事態を受け止めきれていないのである。


「あのぉ、二人共? カブトムシのことなんだし別にいいじゃないスか?」

「「よくない!」です!」

「ははぁ、まあわかりますけど、結果オーライってやつなんじゃないすか」

「ちょ、待ってくれよ姐さん、どこが結果オーライってんですか?」

「ほら、そこ」

「?」


 見てみれば、窓辺にカサカサしていたのは、


「あれ、マンモスちゃんさん!?」

「マンモスちゃん!」


 他でもないマンモスちゃんさんであった。


「いやー、死ぬかと思ったわね~」

「いやほんと何で? 身体はピクリとも動かなくなってたし冷たくなってたしお墓作って埋めたしその上にデカい墓石まで乗せたのに……」

「そー! それのせいで仮死状態から戻っても外に出られないで死ぬかと思ったのよ!」

「仮死?」

「そーそー。アタシたち『魔虫』のちょっとした習性で、ヤバくなったら魔力も内臓も全部止めて死んだふりをするってワケ。あれくらいじゃオバチャンは殺せないわよん」

「「「へー」」」


 勉強になったなぁ、と言わんばかりの顔で三人は手をポンと打った。


「じゃあ姫さん、マンモスちゃんさんが生きてたってことは内緒にしましょう」

「どうしてですか? マリィも気に病んでいたのに」

「だからこそですよ。それでアイツの動きが鈍ればいいし、仮に突然マンモスちゃんさんが出て行けばドッキリするに違いないですって」

「うーん、またマンモスちゃんを危険に曝すのは……」

「いーのよエリちゃん。また墓に埋めたりしちゃってくれたりしなければオバチャン、エリちゃんのために頑張っちゃうから」

「マンモスちゃん……」

「マンモスちゃんさん……」


 エリリアと閉人はジーンと感じ入る。


(なーにやってんスかねぇ、話せるからって虫如きに)


 ビエロッチは妙に冷ややかな目で二人と一匹を見やるのだった。



 その日の晩、閉人はどうも手詰まりになった気がしていた。

 虫が苦手と言ってもあの反応速度。

 ジークマリアの弱点を克服せんとする強靭な意志が、閉人の打てる手の数を着実に減らしていた。

 夕食時のことであった。


「姫さん、ジークマリアの弱点とか何か知りませんか?」

「マリィの弱点、ですか?」


 エリリアは訊ね返す。

 マンモスちゃんを膝に乗せ、旅の道具や服をつくろい直している。


「そです。昨日アイツが色々と弱点を教えてくれたんですけど、昨日の今日でそれを狙っても正直見透かされてると思うんですね」

「うーん、弱点、弱点……マリィにそんなものあるのかしら」

「ほら、学校ではずーっと一緒だったって話じゃないすか。戦闘では無敵でも日常生活で苦手な物があったらその隙を突きます。黒板を引っ掻いた音とか、スカートめくりとか、男子の下ネタとか、何か無いですかね?」

「マリィはそういうのはたぶん大丈夫だと思います。私は苦手でしたけど……」

「されたんッスか? スカートめくり」


 ビエロッチの問いに、エリリアは小さく頷いた。


「って姐さん、そりゃセクハラですよ」

「それを言うなら閉人っちが『弱点』の例に挙げてた時点でセクハラっスー」

「うっ」


 閉人が図星を突かれてうろたえたところで、


「あっ!」


 エリリアが手を打った。


「あるかもしれません、マリィの弱点」

「え、何なに?」

「昔、マリィと学校のお祭りでお化け屋敷に入ったんですけどね、マリィったらお化けに怯えて私の腕に抱き着いてきたんです。とても、とーっても可愛かったんですよ」


 エリリアはぽぉっとしてその時の事を思い出す。


「マリィったらその日の夜は怖くなってしまって私のベッドの方にやってきて、それから……」

「ちょっ、濃密な話になりそうなんでストップストップ!」

「あ、はいっ。つい夢中になってしまって」


 閉人は出かけた鼻血を不死の力で吸い取りつつ、続ける。


「つまりは『お化け』が苦手ってことですね。明日はそれで行ってみます。おどろおどろしい雰囲気が壊れるんで、見目麗しい二人はお留守番で」

「はーい」

「はいっス」


 そして次の日。



『第二の継承試練九日目:お化け作戦』



 森の聖域にて待ち構えていたジークマリアは、森の抜け道を通ってくる気配に気づき、身構える。


「遅いぞ、閉人。それともそれも作戦か……って、ん…………?」


 ジークマリアは森の底を伝ってくる底冷えするような異臭に身構えた。


「何者だ!?」


 草陰から最初に見えたのは赤々とした血だった。

 地面を這うように広がる血液の上を、何かが滑るようにして這ってくる。


「ユルサナイ……ユルサナイ……」

「ユルサナイゾォ……」

「クルシイ……クルシイ……」

「ジークゥ……マリアァ……ッ」


 それは、ぐちゃぐちゃに蕩けた肉塊に無数の手足が生えた化け物だった。

 背には膨れた肉袋が幾重にも重なり、その所々に目玉と口が生えている。

 怨嗟の声は無数に重なり、ジークマリアに覆いかぶさろうとする。


「な、なんだお前は、ま、まさか、今まで殺してきた相手の……」


 ジークマリアは後ずさる。

 その歯は僅かにかみ合わずガチガチと鳴り、顔は真っ青である。


(マジで怖がってやがる。へへ)


 肉塊の怪物こと閉人は、外からは見えない部分でほくそ笑んだ。

 閉人は血闘魔術『無限骨肉戦争アバラ・アバランチ』で自分の内臓や感覚器官などのダミーを作り、グロテスク極まりない怪物を演じている。


 閉人は肉袋の中で骨の棘を作り上げる。

 傷口からほんの数滴血液を流し込むだけで、閉人の血は相手の血管に致命的ダメージを与えることが出来るし、加減次第で拘束もできる。

 ベルモォトに教わり、テディ=ドドンゴ戦で見つけた一撃必殺の力。

 味方に使うべきものではないが、


(これも姫さんのため……)


 閉人は決意してじっとりねっとりジークマリアに近付く。

 ジークマリアは槍を構えたが、構えはふらついている。

 やはり怖いのだ。


「やめろ、来るな! それ以上近づいたら……」


 ジークマリアの恐れぶりに閉人は興が乗って加速する。


「コノウラミ、ハラサデオクモノカー!」


 閉人の身体があと一歩でジークマリアに手が届くと思った。

 その瞬間、


「それ以上近づいたら、化けの皮がはがれるぞ」

「ッ!?」


 閉人の身体が浮いた。

 上昇したのではない。

 落ちたのだ。


「あ痛っ!」


 閉人は一メートルほど落下すると、思わず本物の顔で頭上を見上げる。

 穴の縁からジークマリアと目が合ってしまう。


「ふぅー……やはり閉人、貴様だったか。お化けにしては『赤すぎる』と思ったのだ(?)」


 ジークマリアの声は震えている。有効だったのは間違いない。


「ち、畜生、いつの間に落し穴なんて……」

「貴様が来るのが少し遅かったのでな。体が勝手に動いて掘っていた」

「ぐえー」

「今日も私の勝ちだ。安らかに眠れ、閉人」


 言う傍からジークマリアはスコップで閉人に土をかぶせていく。


「やめろォッ! 俺は死んでなあぁぁい!」

「すまんな。体が勝手に動くのだ」


 嘘である。

 お化け路線で攻めた意趣返しに違いない。

 閉人は土を顔面にぶちまけられてむせてしまう。


「ぶへ、ぶへげほごほ! お、俺は知ってるんだぞ! お前、お化け屋敷行った後寝るのが怖くて姫さんのベッドに潜り込んだんだってな!」

「な、何故それをっ! う、埋めてくれる!」


 ジークマリアは恐るべき速度で土をかぶせていく。


 みるみる土に埋まっていく閉人は焦ることなく心の中で手を打った。


(よし、次の作戦は土の中から行こう)


「今度はマジモンのお化けになって出てやるからな、覚悟しろよ!」


 閉人は意味不明な捨て台詞を吐いて土の中に消えて行った。


「ちっまだ何か企んでいるな、閉人め」


 ジークマリアは落とし穴跡の土を踏み固め、小屋に戻ろうとしたが踵を返してもう一度踏み固め、さらにもう一度踏み固めた。


「明日になったら掘り起こしてやる。それまで死んでろ」


 捨て台詞のように吐き捨てると、ジークマリアは踵を返す。


「だがしかし、くっ……姫様を敵に回すとこういう流れにもなり得るか……正直、諸々暴露されるのが一番こたえる」


 ジークマリアは閉人の悪だくみを知ってか知らずか、悠々と帰っていく。

 そして、次の日。



『第二の継承試練十日目:ゾンビ作戦』



「来たぞ、掘り起こしてやる」


 ジークマリアは閉人を埋めた跡を探すが……


「む? 埋めた跡が消えた……? いや、逆だ。あちこちが掘り返されていて、どれが私の掘ったものか分からない……ッ」


 何か仕掛けられている!

 ジークマリアが悟って身を引こうとした瞬間、剥き出しになっている地面が一斉に蠢いた。


「……ぬっ!」


 地面を突き破り、腕が飛びだした。

 百本はあろうという腕が地面から一斉に飛び出して蠢いている。


「な、うわ、くっ……」


 ジークマリアはその冒涜的な光景に一瞬意識を奪われかけるが、踏みとどまる。


(焦るな。ここはエルフの聖域、墓がある訳でもない。全部が全部、奴の仕掛けだ……)

「おのれ、閉人め!」


 ジークマリアの暴力的なまでの戦闘センスがこの現象の正体を予測する。


(恐らくは昨日と同じく自分の身体のダミーを作っている。だとすれば……)


 ジークマリアは魔槍アンブラルに魔力を込める。


「来い、『闇部侍臣シェイドマン』」


 現れ出た影の分身と背中合わせになって周囲を見回した。


「やはり、な」


 小さく息を吐く。


「仕組みが分かれば、どうということは無い」


 ジークマリアはアンブラルを構え、地面の一点に切っ先を向けた。


 一方その頃閉人と言えば。


「へっへっへっへっ、全部ダミーだと思ってるだろ? 違うんだなぁこれが。大量の腕の中に一定の割合で『本命』を隠してある。そいつらは俺の自由に動かせるし、血を大量に入れてある。ダミーを斬ってる後ろから襲えるし、もし斬られても血が飛び散って無事じゃいられねぇ」


 地中で閉人はほくそ笑む。

 この思い付きの作戦のために、昨晩は徹夜で準備したのである。

 穴掘って腕埋めて再生して穴掘っての繰り返しを百回繰り返した。

 さらに、『本命』の腕にいくつか視覚共有用の目玉を付けるのも堪えた。


「絶対にここで勝つ。あとは奴が腕に気を取られてくれれば……」


 そう思った矢先、本命の腕たちに取りつけておいた目玉がおかしな光景を映し出した。


「あれ、これ……アイツ、俺の方に一直線に槍を……」


 次の瞬間、閉人の視界を覆う土が裂け、煌めく白刃が胸に突き刺さった。


「ぎ、ぎえええぇぇぇおぉぉぉぉぉあああぁぁぁあ!?」


 ジークマリアの槍が地面を裂き、隠れていた閉人に突き刺さったのだ。

 閉人は胸を貫かれたままジークマリアの頭上にまで持ち上げられた。


「な、何で俺の場所が?」

「……閉人、貴様の腕は、僅かにだが規則的な動きをしていた」


 ジークマリアは閉人の身体をその辺に下ろすと、『本命』の方の腕を指さした。


「人間の身体というのは、頭脳から発せられる信号を受けて動くらしい。そして、信号が出てから実際に身体が動くまでにはほんの僅かなズレが出る。腕と本体の距離も、そのズレに影響を与えうる」

「ま、まさか……腕の動きのズレを観察して、俺がどこにいるかを?」

「そのまさかだ。私は相手の筋肉の機微を見て次の動きを予測する訓練を受けている。できないはずはない。そう、出来てしまうんだ」

「ッ……!」


 立ち上がりかけていた閉人は、がっくりと力を失い両膝をついた。


「か、勝てない……マジで勝てない……」

「すまんな、手加減が出来ん。それどころか感覚が研ぎ澄まされていっているようだ」

「嫌味かよ」

「事実だ。だが、貴様の戦術も堂に入っていたぞ」

「……けっ」


 閉人はその辺の石ころを蹴っ飛ばすと、バラバラになった身体を回収してジークマリアに背を向けた。

 ジークマリアの態度がどうとか、そういう次元ではない。

 閉人は自身の、彼は悟っていた。


(勝てない。結局雑魚に毛が生えた程度の俺が、ジークマリアに短期間で勝てるようになる方法なんか無かった。俺は、どうすればいいんだ……?)


 解答不能の問題に頭がギリギリと痛み、思わず両手で頭を掻きむしる。

 とぼとぼと帰っていくその姿は、ジークマリアから見てとても小さく見えた。



 そして、次の日。


「……これは、まずいかもしれない」


 閉人は試練に来なかった。

 次の日も、次の次の日も、次の次の次の日も来なかった。


 そして、次の次の次の次の日……それは起こった。




『断章のグリモア』

 その56:不死者の身体操作について


 ゾンビ作戦において閉人は、不死身の回復力だけでなく身体の変形や血液の操作など、不死者特有の能力を活かした戦いを仕掛けていた。

 閉人に組み込まれている魔術の中で明らかになっているのは、ランク5『瀉血地獄沼レッド・サンクチュアリ』とランク6『無限骨肉戦争アバラ・アバランチ』の二種。魔銃カンダタによって発動する『瀉弾血銃ブラッド・ブリード』は不死者が使うための魔術だが、不死の特性を拡張するために外部で作られた魔術に類する。

 その他にいくつかの魔術とが組み合わさり、さらにそれらを大魔術が統合することで閉人の不死性は形づくられている。

 今回、閉人は『無限骨肉戦争』で腕を増やし、『瀉血地獄沼』で一撃必殺の血液を腕に込めて戦った。だが、増やした目玉にどうやって神経を通したか、物理的に接続していない腕をどのように操ったか。その仕組みは明らかになっていない。

 閉人は自身がまだ認識していない魔術を含めて駆使し、戦っているのだ。

 まだ明らかになっていない魔術を正しく認識するのは、今後の彼に必要なことである。

 まあ、それが出来たからといってジークマリアに勝てるというものでもないのだが。


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