好きなんだろ?

 グラウンドの方へ歩いて行くと、運動部の生徒たちの活気良い声が聞こえてきた。


 そういえば、トオルくん…。

 サッカー部だったんだっけ。


 ちょっとだけ…見ていこうかな。



 トオルくん目当ての女子たちの取り巻きを横目で見ながら、私は少し離れた場所から見学することにした。



 すると、すぐに私に気付いたらしいトオルくんがこっちへ向かって歩いてきた。



「サオリちゃ~ん!」



 ちょうど練習をしていたのか、サッカー部のユニフォームを身につけていた。



「嬉しいな。サオリちゃん、見に来てくれたんだね」


「う…うん でも、すぐ帰るから……」



 女子たちの視線を感じる。

 真っ先にこっちへ来て、トオルくんのファンに睨まれそう。



「あれ…? 今日は、リョウと一緒に帰らないの?」



 トオルくんは、キョロキョロと辺りを見回して、私が一人でいることを気にし始めた。



「ちょっと… あの… いろいろ忙しいみたいで……」


「ふぅ~ん そうなんだぁ」



 すぐにまた練習に戻るのかと思ってたんだけど。

 トオルくんは、その場をなかなか立ち去ろうとしなかった。


 それよりか……。



「リョウには、まだ告ってないの?」



 …って、そっと耳元で言ってきたので、ビクッ!ってした。



「な、何でそんなこと訊くの?」


「いや、別に。何となく……」



 そのとき、トオルくんを呼ぶ声が聞こえた。

 その声の主は、サッカー部員の男子生徒だった。



「じゃぁ、オレ そろそろ戻るわ」



 そう言って、トオルくんはグラウンドの方へ走って行った。



 ユウコもトオルくんも、サオリの気持ちに気付いてるのかな?


 そんなことをずっと考えていたら…――。

 余計に意識してしまって、今日は朝からリョウちゃんの顔を真面に見れなかった。




 やがて、お昼休みに入ると…――。

 ”中間テスト”の順位が廊下に張り出された。



 リョウちゃんとトオルくんは、勉強でも競い合っているらしく、成績もトップクラスにいた。



「あー くそっ! あいつ また先、行きやがった~。

 この間までちょっとしか離れてなかったのに~!!」



 後ろから、悔しそうに聞こえる声。

 振り向くと、トオルくんが”中間テスト”の順位を目で追っていた。



「アイツは、どういう勉強のやり方をしてるんだ……」



 ブツブツと独り言のように呟くトオルくんが眺めていた先には、リョウちゃんの名前があった。



「すごいね、リョウちゃん。8位に入ってる…」



 つい、正直に言ってしまって、トオルくんを傷つけちゃったかな~って思い…―。



「で でも、トオルくんだって… えっと… 15位に入ってるなんて、すごいじゃない~!」



 …って、慌てて言い直したんだけど、遅かった。



「…サオリちゃんって、痛いとこ突くなぁ~」



 軽く傷ついたみたいだ。



「ご、ごめんね…… トオルくん…」


「いいよ、いいよ。 別に、気にしてないから。

 オレなら、大丈夫だよ。 それよりも……」



 トオルくんは、いつもの優しい口調で応えてから。

 すぐに、心配そうな表情に変わった。



「サオリちゃんこそ、大丈夫?

 今日、元気なかったよね? アイツと喋った?」



 す、鋭い!



 すぐに、リョウちゃんのことを言っているのが分かった。



「昨日のバスケで、女子に異常にモテてたからなぁ~ あいつ…。

 サオリちゃんも、気をつけてね」


「え…? 何が?」


「”何が?”って… なんだろ? リョウのこと…」



 って、トオルくんに言われて、ドキッとした。



 何で、分かっちゃうんだろ…?

 っていうことは…。

 もしかしてユウコも?


 リョウちゃんは……?

 気付いてないよね……?



 頭の中でいろんなことを考えていたら、トオルくんが 私の心を見透かしているかのような口調で言った。



「早く告白しないと、他の誰かに取られちゃうぜ」



 え…。

 誰かに……?



 そういえば、昨日も… ユウコが、同じことを言ってたことを思い出した。



 でも、もし サオリが告白して、断られちゃったら…?

 今の関係も崩れちゃうかもしれない……。


 そしたら、もう ”友達”にも戻れなくなっちゃうのかな?


 そんなこと 怖くて言えないよぉ~。






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