32.3 「まさに聖人。あなたは祝福の子です」

「第二次征東せいとう戦線なァ。苦労人だ」


 ジャックは感心したように言った。

 オレはよく知らないので、「なんだそれ」といた。


「学堂じゃ習わないのか。まぁ第一次でさえ十年かそこらの話だものな。第二次は五年くらい前だ。フルシ東方の蛮族がフルシの金持ちを襲って始まった戦争だよ」

「フルシ? どこだそれ」

「国はもうない。大陸北西にあった小国だ。遠い。戦争には周辺の小国や――遠くはブリタまで加わって東方を攻めたが、ゲリラ戦じゃ向こうが上手うわてだった」


 まぁその話はいいだろ、とジャックは一方的に話題を変えた。


「ミラの話はわかった。それで、お前のほうはどうなんだ、ノヴェル」


 オレはジャックの持ってきたパン切れや乾物かんぶつ、肉の缶詰を夢中で食っていた。

 この世にはこんなうまいものがまだあったんだ。牛も豚も全て滅んでしまったと思ってた。

 ミラとオフィーレアが風呂に入っている間、オレはあの共用棟を調べた。

 掃除用具入れや炊事場すいじば

 あとはサマスの小さな私室――そこは不用心にも無施錠だったが、中はベッドと机、それから小さなたながあるきりだ。

 ベッドの下まで見たが、地下室はおろかエロ本すらなし。

 棚には何かの薬が少々、そして乾燥した草が沢山あった。

 おそらく貴重品などは、彼がいつも肩から下げている小さな鞄の中だろうか。

 他には何もなかった。

 少なくともスプレネムに繋がりそうなものは――だ。


「特に何も――女子便所まで見た。何にもなかった。怪しいとこ、他と違うとこはなかった」

「なんだお前。他所よその女子便所にも詳しいのか?」


 オレはパンをいて激しくせきき込んだ。

 ジャックは何か気掛かりがあるようで、少し考えた風で話を戻した。


「さっきの話だが――『神はいない』『もうすぐできる』――そいつはそう言ったんだな?」 

「オフィーレアだ。そいつ呼ばわりはやめやがれ」


 悪かった、とジャックは両手をげてミラをなだめる。

 オフィーレアが言ったという言葉からは、神がどの女神を意味するのかまではハッキリしない。


「だがそりゃ上手くないな。例えば、『今はいないが夏になったらスプレネムが運ばれてくる』なんて話だったら、潜入が長引くどころの話じゃない。俺はいい加減、お前らが心配なんだよ」


 食事が栄養とエネルギーになって脳に回り、ようやくオレは自分を取り戻していた。


「ミラ。ずばり一番怪しいのはどこだと思う?」

「倉庫だな」


 同感だった。

 倉庫はあの十字の寺院の裏手側にある。

 勿論他にも怪しいところは沢山あるが、オレには確信めいたものがあった。


「あのな、あいつら、オレが殴られるたびに『懲罰房ちょうばつぼう送りだぞ』っておどすんだ。けど上の連中からは一度も懲罰房の話なんか出たことがない」

「つまりどこかに懲罰房があるが、なぜか今は使えねえってことか。でかしたぞ。殴られまくった甲斐かいがあったな。で、その懲罰房ってどこだ」

「それはまだ判らないけど――おそらく倉庫の中に地下があるんじゃないかって」

「さあな。おめえの想像だ」


 ミラがそう言うのも判る。地下室なんか、どこにいくつあってもおかしくない。

 でもジャックはまた少し考えつつ、オレに同意した。


「いやミラ。お前が聞いた話じゃ、昔は物資が沢山あったんだろ? それはその倉庫に収まりきったのか? 地下室があっても何も不思議じゃない。あるなら倉庫が一番怪しい」

「わかったよガキども。お前らが正しい。だがどうやって倉庫に入る? あそこは施錠されてんだ。ノヴェルはへろへろになってたが、あたいはちゃんと調べた」

「――それは――なんとかしろ」


 ジャックもアイデアがないようだ。

 それならその倉庫に地下があるのか調べるのが次のステップになりそうだ。

 ミラは噛み切った残りの干し肉を見せて、「またこいつを頼むぜ」と言った。



***



 オレは労働しながら、一体どうやって倉庫に潜り込むか、そればかりを考えていた。

 午前中、畑でオレ達を痛めつけた男達がニヤニヤ笑いながらやってきた。


「おい、お前の姉さんのことだけどな、噂になってっぞ」

「ミランダ姉さんが……? 兄さん達にとっても兄妹きょうだいでしょ」


 どうだかな、と男達はわらった。


「オフィーレア姉さんの姉さんになっちまったんじゃねえか」

「何やら昨日、風呂場でよろしくやってたみてえじゃねえか」


 オレには意味が判らなかった。

 ――どういう意味だよと訊くと、男達は更にたのしそうに嗤う。


「判らねえか? お前の姉さんは女が好きなんだろ? 昨日、オフィーレアを誘って、神聖な浴室で何やってたんだか――」

「はぁっ!? 誰だよそんなこと言ったの!」


 オレはたまらずそう叫んだ。

 噂だぜ、とあごで向こうを示される。

 そっちを見ると、ミラが沢山の女たちに囲まれ、蹴られたり髪を引っ張られたりしていた。


「ありゃあ懲罰房送りだな」


 ふざけんな、とオレはミラの方へ行こうとして――肩を強く引っ張られ、止められた。

 男達は殊勝しゅしょうな表情で首を横に振る。


「女のことは女だけに任せとけ。巻き込まれて大怪我するぜ」


 オレの見ている前で、ミラは棟のかげへ引きられていった。

 その後オレはミラを探し続けたが――ついに昼食のときにも表れなかった。

 ミラ――大丈夫だろうか。

 午後の作業をどうにかして抜け出して、ミラを探すか、それとも倉庫に入る方法を探すか――。

 しかし昼食後、サマスがオレを呼んだ。


「ノウウェルさん、ちょっとこちらへ」

「え――今、ミランダ姉さんを探してて――後で連れていきます」

「いいえ。あなたお一人で」


 ――これはまずいんじゃないか? オレの正体がバレたとか?

 仕方がなく、サマスに連れられて席を立った。

 連れて行かれた場所は礼拝堂だった。


「帳面を見せてください」

「帳面? あ、はい」


 オレは服にい付けられたポケットから、例の細長い本を取り出した。

 サマスはそれを取ると後ろの方の何も書いていないページをめくり、「美しい」とため息をついた。

 そのページは、魔術を使ったことの記録だ。

 ここの暮らしは基本的に魔術に頼らないが、使ったぶんを記録するなら禁止ってわけでもない。

 人によっては生まれてからずっと、これまで使ってきた魔術を全て書きめているらしい。

 正確なのかどうかは知らないが。


「実に素晴らしい。このページが真っ白なのは、あなただけです。ノウウェルさん」

「あ、はい……」

「魔力を持たないというのは本当なのですね。他の者が女神にすがろうとするときも、あなただけは決してそれをしない。見ていれば判ります」


 サマスはオレの手を取り、それをまじまじと見つめる。


咄嗟とっさの手の使い方、バランスの取り方、そういうところに違いが出るものです。そしてこの掌」

「えっ、あっ、はい……」


 オレだってすがれるものならすがりたいものだ。


「邪悪な神に借りを作ってはいけません。しかし、この世では誰もが魔術に頼って生きている。悲しいことですが、ここでの暮らしも例外ではありません。ですがあなただけは別――まさに聖人。あなたは祝福の子です」

「はい……」


 買いかぶりですってば、と軽口を叩く気も起きなかった。

 その代りオレはサマスに向きあった。


「サマス叔父さん、ミランダ姉さんを懲罰房に入れないでください」

「……オフィーレアとのことですか? 噂は耳にしましたが――」

「何かの間違いに決まってます! だから」

「ご心配なく。懲罰房送りなど、あり得ません」


 サマスとの面会はそれだけだった。

 やっぱりだ。

 懲罰房はある。

 なのに使うのはあり得ない・・・・・のだそうだ。

 きっと先客がいる。

 スプレネムはそこだ。

 あとはどうやって倉庫に侵入するかだ。

 鍵は――予想ではサマスが持っている。司祭は留守も多いようで、鍵を管理するには不向きだ。

 でもオレはそれに集中できなかった。

 今だって、倉庫のことなんか何も訊けなかった。

 ミラが心配で、任務に集中することが難しい。

 気を散らしている場合じゃないのに。

 夜の礼拝になって、やっとミラを見つけることができた。

 ずっとオフィーレアがそばに付き添っていて、ミラをいたわっているように見える。

 他の奴らがちょっかいを出さないよう見張っているのだろう。

 ――『姉さんの姉さん』か。まんざらじゃないのかもな。

 一日を終えて部屋に戻ると、ミラはオレに対してはいつもと同じように振舞った。


「あのクソどもめ。いつか全員並べて水ぶっかけてやる」


 それは無理をしているように見えた。

 他の奴にするのと同じように、オレに対しても演技をしているんじゃないか――。

 そうして消灯を迎える。

 オレは、考えていた作戦を彼女に相談した。



***



 突然、西側の居住棟に叫び声がひびいた。

 ノヴェルとミラの住む棟である。

 消灯後の暗闇が、ぽつぽつと灯るランプで切り裂かれてゆく。

 何事かと扉を開けて外をのぞいた信者達は、ドタバタと暴れる音、乱暴にドアが開かれる音を聞いた。


「何だ何だ」

「何事です」


 共用棟から飛び出してきたサマスは、テラスから棟を見渡してすぐに気付いた。

 扉が開け放たれたままの部屋がある。西棟の一番奥だ。

 ――ノウウェル――あの、ヘイムワース一族の者の部屋だ。

 彼が慌ててそこへ走り、室内を覗き込む。


「サ、サマス叔父様――」

「ミランダ、これは一体――どうしたのです」


 ミランダが倒れていた。

 そして二階のベッドに上がる梯子はしごが壊れている。

 梯子は真ん中で二つに折られて投げ出されていた。

 人為的な破壊だ。


「何でもないのです、サマス叔父様。お騒がせしてすみませんでした。これは私とノウウェルの問題です。他の皆にも私がおびを――」

「待ちなさい、ミランダ。あなた方の問題は家族の問題でもあります。まずお話しなさい」

「実は――」


 ミランダは語った。

 かつてヘイムワース子爵の起こしたある事件により、本家と分家は断裂していた。

 分家筋のノウウェルとは、実はあまり仲が良くなく、こうして暴れることがあるのだ、と。


「急に『同じベッドでは寝たくない』と子供じみたことを申して」

「同じと言っても二段ベッドの上と下でしょう」

「はい。ですがあの子も足腰を傷め梯子を上るのが痛いと。あの子も私も高所恐怖症で、上では寝付けないのです」

「高所恐怖症――なるほど。しかしベッドならもう一脚――ああ」


 サマスは隣の二段ベッドを見て思い出した。

 そちらには荷物を詰め込んである。

 三つの大きな木箱。

 とても横になるスペースはない。


「あの子も、多感な年ごろです。私と同室で息苦しい思いをさせてしまいました。あんなに暴れるなんて――。私が、あの子と本当の姉弟きょうだいになる機会とばかりに浮かれていたせいで――」

「もうよろしい。ふむ。こちらのベッドを使えるようにすれば、一先ひとまず彼は落ち着くのですね?」

「はい」


 致し方ない、とサマスは部屋から出て、何事かと集まっていた者らに向けて言った。


「お集りの皆様。消灯後に心苦しいですが、小さな家族ノウウェルのために力を貸しては貰えませんか。ここにある箱を、外に出して欲しいのです」


 三名の男が前に出た。


「おお、メリオ、ダン、ハリー。力を貸してくださいますか」


 男達は入るなり、いやらしくミランダをながめつつ言った。


「外に出しゃいいんだってな」

「へへっ。俺ならかわいい弟のために一緒に寝てやるのによ。男もいいもんだぜ?」

「まったく、貴族出の奴らは人情がない。そんなことで神の寵愛ちょうあいに漏れても知らないぞ」


 神の愛を代弁することはなりません、とサマスがたしなめる。

 男達の手によって、ベッドを占有していた木箱はすっかり運び出された。


「――さて、ここにくシーツですが――」


 サマスはミランダのベッドの上から、シーツと毛布を引きがした。


「これでいいでしょう。少々ほこりっぽいのは、彼に掃除してもらうとして――さて、ノウウェルは一体どこへ?」

「ありがとうございます、サマス叔父様。あの子ももうすぐ戻ると思います」

「ならば、戻り次第私にお知らせを」


 サマスは扉を閉めた。

 外には木箱が三つ並んでいる。


「さて――メリオ、ダン、ハリー。せっかくですから、手分けしてこれを倉庫に入れましょう」

「サマスの叔父貴よ。こいつは結構重かったぜ。何が入ってるんだ」

「布教用の冊子です」


 箱を開けると、そこには縦長の小冊子がぎっしりと詰まっている。


「紙ばっかでこんなに重いのか。台車がるな。明日の作業に響く」


 それはいけませんね――と言いつつ、サマスは肩にかけた小さなかばんから鍵束を取り出す。

 しかし、すぐ鍵束をまた戻した。


「――エイシャ、倉庫から台車をお願いします。倉庫の横にあるはずです」


 エイシャと呼ばれた女がうなずき、壁からランプを取って走って行った。



***

 


 ――どうやら台車は動きだした。

 オレは木箱の中で息を殺している。

 おそらくうまくいったのだ。

 箱の中からでは、小さな穴を通じてしか外の様子はわからない。

 ――我ながらいいアイデアだったと思う。

 木箱の中が、例の冊子で一杯だと確認したときにはこれしかないと思った。

 ひと芝居打って隣のベッドを開けさせる。

 退かされた荷物はどこに移動されるか。

 それはおそらく倉庫だ。


『倉庫に置けねえからここにあるんじゃねえか? 空きがないとかで』


 ミラはそう迷っていたが、こいつは布教用だ。すぐ取り出せたほうがよくて、倉庫に仕舞い込むようなものじゃない。

 それでも未だにここに置き去りってことは、倉庫の具合とは無関係に出番がないに違いないのだ。


『サマスのおっさんなら、家族云々うんぬんの話にほだされてうまく動いてくれると思うぜ』


 そこはミラの読み通りだった。


『ほら、一発顔を殴れよ。目の下あたりを。崖で蹴っ飛ばしたお釣りをくれていいぜ』


 ミラはそう言って顔を突き出してきた。

 オレはこばんだ。

『そのほうがリアリティが出るぞ』とミラは言った。

 わかるが――どうしてもそれはできなかった。

 きっとオレはからかわれたんだ。彼女ならお得意の認識術でうまいことやるに違いなかったのだから。

 ともかく上手く行った。

 台車はテラスを抜け、曲がる。

 急激な横向きの加速が箱にかかって、中でオレはバランスを崩す。

 箱がズズッと重たい音を立てた。


「おおっと、あぶねえ――」


 ドンガラガラと何かが落ちる重い音がひびいて、オレは箱の中で身を固くする。

 天地は普通だ。横倒しにもなっていない。

 どうやら――オレの上に重ねられた箱がはずみで転がったようだった。


「この間抜け! 言わんこっちゃねえ! 仕事増やしやがって!」


 反対側の穴から見てみると、散乱した冊子を拾い集める男の姿が見えた。


「おい! 済まねえ! 手を貸してくれ!」

「なんだい。あたしたちは明日の仕込みがあんだよ」


 不満そうな女の声がそう答えた。

 たぶん、昼間ミラを痛めつけていたあの女だ。


「なんだって消灯過ぎてからそんなこと――ああ、例の貴族様のか」

「そうだよ!」

「なら俺達と同じだ。俺達も、ヘイムワースのお嬢さんのわがままにつき合わされて、倉庫まで行かなきゃなんねえ」


 なんだ。

 外で何が起きているんだ。

 カチャカチャと鍵束をいじる音が聞こえた。


「倉庫へ? だったら丁度ちょうどいいや。炊事場からも持ってって欲しいもんがあんだよ」


 台車が動く。

 蹴り飛ばされたような衝撃があって、台車はごろごろと音を立てて進む。

 やがて止まった。

 ――ここは、どのへんだ。

 暗い。

 だが明かりが見える。

 炊事場だ。その様子が見えた。

 数人の女たちが、ぶつぶつ言いあいながら例の作物――オートライブだかを取り出していた。

 まだ土の残るそれは、収穫したばかりの――。

 待て、今日収穫はなかったはずだ。

 ならあれは昨日、オレとミラが収穫したものか?

 さっきあの女はミラのせいで仕事が増えたようなことを言っていた。それとも合致がっちする。

 でも――オレ達の収穫した草に、一体何をしようとしているのだろう?

 女たちは、けらけらと笑いながら瓶入りの白い粉を取り出した。

 それを、オレ達の収穫物にたっぷりと振りかけてゆく。


「世話をかけさせるよ。あいつを甘やかしてるんだ」

「まったくだね。さあ、それもこれでしまいさ。次からはしっかり教育しておやり」


 ――何だあれは。何をしているんだ。

 いやな予感がした。

 オレは耳と口に手を当て、イアーポッドを通じてミラに呼び掛ける。


「ミラ。なんだか様子がおかしい。奴らが、オレたちの食事に何かを――ミラ?」


 応答がない。

 そこへ。

 ドタバタと足音がした。


「そこで何をしているのです!」


 ひやりとした。

 あまりの大声に、オレが見つかったのかと思ったがそうではないようだ。

 この声はミラの幼馴染、オフィーレアだ。


「べ……別に大したことじゃありませんよ」

「あ――あなた達またこんなことを! なりませんと言ったはずです!」

「何にもしてませんって。あたしらはただ言われた通り――」

「いいえ! あなた方は家族です! 私だってこんな――いえ、これはあなた方のために言うのです! 神の導きを信じ、その小さな迷いを捨てるのです!」


 オイオイ、なんだ喧嘩か? と男達がやってくる。


「後にしてくんねえかな、姉さん方。俺達ゃもう眠いんだよ」

「なんだい。こっちだって色々あんだよ」

「このお嬢さんが急に言いがかりをつけてきたんだ。あたしら、いくら家族だって黙っちゃいられないよ」

「よさねえか。サマスの叔父貴に怒られんぞ」

「好きにやらせとけ。俺らはこいつを倉庫に突っ込んで鍵閉めてしまいよ」


 ――まずい。

 箱から出た後、どうするかまで詰めていなかった。

 最悪倉庫から出られなくてもいい計画だったが――今見たことを、ミラに報告する義務があるんじゃないか?


「ミラ、頼む。まずいことになってる。もし朝までにオレが戻れなきゃ、朝食に気を――ミラ、応答してくれ! 聞こえているのか!?」


 オレは声を殺し、再びミラに呼びかけた。

 しかし返事はない。


「おやめなさい!」

「やめろ、オフィーレア!」


 オレが懸命けんめいに通信をこころみている間に、炊事場では押し問答から小競こぜり合いになっていた。

 例の白い粉を詰めた瓶の奪い合いになっている。


「今頃来たってもう遅いよ!」

「遅いものですか! それを渡しなさい」

「もうやっちまったい! 明日の当番はあたしだもの! ミランダがどれを食うかなんてあんたに判るもんかい!」


 ――やっぱりミラに一服る気だ。

 彼女に伝えなければ。

 危険が迫っている、と。

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