16-7

 舞風まいかぜは呼びだしたパルクール・サバイバー用ARアーマーで急ぐ。

その場所では既にマルスとアルストロメリアのバトルが展開されていた。

仮にも相手はプロと言える実力者――今のマルスで勝てる相手とは思えない。

(いそがないと――)

 アーマーを操作するのに慣れている為か、特にチュートリアルを見ることなく舞風は操作を続ける。

目的地へと向かう一方で、彼女には気になる事があった。それはSNS炎上勢力とアルストロメリアは繋がっているのか?

(力で解決したとしても――それは歴史の繰り返しでしかない)

 彼女が懸念しているのは、マルスが勢いだけでアルストロメリアに挑んでいる可能性がある事。

それでは何も響かないし、SNS炎上勢力やバズり目的のユーザーを調子づかせるだけだろう。

例え事実の情報でも、それに虚構の情報や煽り文章を混ぜたりして炎上させる勢力はいる。

そうした勢力には何もさせず視聴者オンリーにする方が一番の理想形だが、それを押し付けるのでは同じ事だ。

(何もかもが炎上勢力のシナリオ通りにはさせない)

 マルスが最初の対象とされていた段階で気付くべきだった。バーチャルアイドルよりも、優先させるべき事はあったはずなのに。

二次創作メアリー・スーがリアル世界を炎上させると言うのが炎上勢力のシナリオなのは間違いない。



 その一方で、バトルの方は予想外の盛り上がりを見せていた。

結果としては速攻と言う訳ではないのだが、それに近いだろうか。

「なんて実力――」

「あれがプロゲーマーなのか?」

「想像以上だ。あれでプロじゃないのであれば嘘だ」

 観戦していたギャラリーは、その結果に驚く事になった。

勝ったのはマルスではなく、アルストロメリアだったのだが――反応は予想外とも言える。

(こっちが悪役のポジションかと思っていたけど、あの反応だと――違うのかな)

 少し立ち止まってアルストロメリアは思考し、周囲の反応に関して驚くしかなかった。

一体、自分は何をしたのか自覚はしているようだが、それでこの反応なのは本人が納得していない。

「これが実力の差――」

 負傷しているマルスの方は、データ修復が追いつかない可能性もあるかもしれない。

その為か、装備に若干のノイズが発生している。バーチャルアバターではよくある現象か。

「実力の差はあるだろうが、君には一つだけ足りない物があった」

「足りない、物?」

 アルストロメリアが勝利した理由、それはマルスに足りない物があったという事らしい。

それを聞こうとするマルスなのだが――彼のアバターは消滅しかけている。

マルス達をはじめとした鍵の所有者は、ARガジェットを利用したバーチャルアイドル的なシステムの応用で生まれた技術。

単独でアバターだけが自意識を持って起動している事自体があり得ない物だったのだ。

それに加えて、その技術はSNS炎上勢力が悪用して召喚システムのような物に流用、その結果が――今回の事件の真相である。

「例え、自らで考える力を持ったとしても、熱量だけでなく――」

 アルストロメリアが話をしている途中でマルスは消滅する。

それを確かめて何人かの私服SNSまとめサイト勢力を発見し、アルストロメリアは――。

「悪意を持って便乗し、荒稼ぎをしようと考えるのは言語道断!」

 逃げていくまとめサイト勢力に対し、彼女は叫ぶ。この場面だと、普通は投げナイフ等を投げて足止めしそうな場面だが。

それをやっても、彼らは一連の光景を利用して炎上するだろう。どのような事件だろうと炎上させ、同調圧力などを得ようとするのが彼らのやり方だ。

俗に言う不謹慎厨等も、こうした勢力と同列であり――存在自体を許すべきではない。だからこそ、彼女は戦うのだ。



「やはり、こう言う事を想定していたか」

 瀬川せがわプロデューサーは、会社のパソコンを起動してレポートを作成している。

その途中でWEB小説サイトに載っているプロットを見て驚いていた。

 その内容は『不謹慎厨とSNS炎上勢力』という物であり、どう考えても一連の事件とは一致しない物。

それなのに――内容を見ているとヴァーチャルレインボーファンタジーに似たような物がある、と感じていた。

まるで、あの事件を目撃した人物が書いている様な形跡も存在するが――。

「SNSマナーだけでなく、こうした勢力を想定した情報発信をしていくのが理想と言う事か」

 ニュースサイトで、ある作品が炎上しているニュースをチェックしていた瀬川は、改めて舞風の伝えたかったメッセージを考えた。

舞風と言うハンドルネーム自体、複数あったので確信が持てる訳ではなかった。しかし、ガングートの件を踏まえ――特定できたとも言える。

「結局、あの事件は報道されないままか。あの広告会社にとっては都合が悪いと言える展開だろうな」

 今は令和の時代、七月七日と七夕の時期になっている。一連の事件は『鍵を巡る七日』ともSNS上では言及された。

それこそ都市伝説と言うレベルだが、それを事実も交じったフィクションだと言う事は知られていない。

「それでも明けない夜はない――はずだ。SNS炎上勢力や不謹慎厨がリアルでバッドエンドシナリオを続けるような事は――」

 言いたい事は他にもあるが、レポートを続ける為にもあえて――。

その一方で、瀬川は舞風からある物を託されていた。これを実現出来るフィールドが整うまでに、やることはたくさんあるだろう。

それらをクリアしてこそ、託された計画を実行出来ると言えるかもしれない。



『ヴァーチャルアイドルニュープロジェクト』

 瀬川が舞風から託されたメモには、こう書かれていた。

これを実現させる為、瀬川はARゲーム環境のシステム調整も行わないといけない。

SNS炎上勢力やフェイクニュースを広めようとする勢力を規制する為のガイドライン作りも必要になる。

全ては、次の物語の為――新たなヒーローたちの為にも、こうした土台作りは重要だと瀬川は改めて感じていたのだ。

「我々が求める理想世界、それに近づく為にも――」

 一連の事件は、広告会社の圧力で結末も多く語られる事無く幕を閉じた。

全てがハッピーエンドだったのかは分からないが、SNS炎上勢力を摘発出来た事は大きいかもしれない。

「我々は、ネガティブイメージを抱かせないような情報発信をしていく必要があるのだろうな」

 レポートを仕上げつつ、瀬川はコーヒーカップに入ったコーヒーを飲みつつ、色々と考えた。

これから先は舞風達が整備していった道を、新たなゲーマーが通っていくターンなのだから。



 こうして、全ての事件は幕を閉じた。

アルストロメリアが捕まえようとしていた勢力も、広告会社絡みだった為に――封印されたのかは定かではない。

 しかし、マルスで運用されたシステムが悪用される事でSNS炎上を大きくする事が可能だと言う事は判明した。

それを踏まえてセキュリティを強化する案も出たのだが、それよりも先に運用範囲の変更も提案されている。

このシステムは一次創作オンリーで運用すべき――という前提条件、それを採用する事でシステム運用を許可すると言う物だ。

果たして、このシステムが新たな世界でどのような運用がされるのかは――新たなプレイヤーたちの手にかかっている。

令和という時代のコンテンツは、平成時代にあったSNS炎上事件から学ばないといけないのだ。



 SNS炎上勢力が全てを掌握するような未来を止める為、もう一人のゲーマーが動き出すのだが――。

それはまだ、もう少し先の話なのかもしれない。

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