16-3

「黒歴史? あの事件があってこそ、我々――」

 電話主は途中で切ってしまったようである。

話が通じないような人物と会話をするだけ無駄と彼らは考え、再び動き出そうとした。

「人様の店の前で、どういう事をしているのか分かってるの?」

 しかし、動き出そうとした人物を呼びとめる訳でもなく姿を見せたのは、ボロボロのマントにテンガロンハット、スクール水着と言う女性だった。

この人物の持っている武器は、見た目こそは日本刀に見えるのだが――映像にノイズが混ざっているのでARゲーム用の映像だろう。

「あの話を聞いていたのか?」

「話? 黒歴史の仕様とか言っていた――」

「全て聞いていたのか? ならば、生かして返す訳には!」

 男性の方は指を鳴らすと、次の瞬間には魔物を召喚したのである。

この場所では出来たのに、何故にあの場所では呼べなかったのか――疑問も残るが。

「なるほど、そう言うゲームか。ならば――!」

 彼女は居合いを披露するかのような構えを見せ、その一閃で召喚された魔物を消滅させる。

「馬鹿な――! あの魔物はHPも百万オーバーの部類。それをワンパンなんてありえない」

「あり得ない?」

 彼女の持つ日本刀と思われた武器の正体、それはレーザーブレードだった。

日本刀と認識していたのは他のギャラリーやあの男性のみで、ノイズが元に戻ってからはレーザーブレードの形状になっている。

「純粋なイースポーツやバトルに乱入する利益優先で他を不要と考えて参戦し――」

 彼女の方は本気で男性を倒そうとはしていないが、彼の会話の内容を把握しているだけに怒りが爆発寸前だった。

しばらくして、彼の近くまで接近し――気が付くと一メートルも満たない距離まで迫っている。

(大手企業のバックアップがなければ、コンテンツは終わるだろう。そうではないのか?)

 男性の考えは、おそらく彼女には通じない。

利益至上主義型でファンを置き去りにするコンテンツ――それが何度も炎上した光景を知っている。

「全てを食らい、炎上させるような企業をいくつも見てきた」

 彼女はレーザーブレードを突きつける事はしない。目の前に接近した辺りでレーザーブレードは収納していたからだ。

「これ以上、不用意に煽り、真実を誤認識させ、大炎上に導くようなバズり目的の人物を生み出すような――そうした世界はご免だ」

 言いたい事だけ言い残し、彼女は何処かへと消えてしまった。一体、何が言いたかったのか?

しかし、男性はこれ以上迂闊に介入すれば命がないと判断し、今回のコラボからは手を引く事になった。

これによって、ヴァーチャルレインボーファンタジーで密かに行われようとした超有名アイドルコラボは白紙になったのである。



 コラボが白紙になった件は、瀬川せがわプロデューサーの耳にも届く。これで、一応の決着は付けられるだろう。

「君たちの活躍もあって、炎上勢力は撤退していった。その正体は、こちらもおおよそ分かっていたが」

 瀬川の発言を聞き、何となく正体が把握出来る人物はほとんどいない。いてもビスマルクかガングート位だろう。

「一体、誰が止めを刺したのか。ガーディアンか?」

 等身大サイズで実体化しているレッドカイザーは、彼らを倒したのはガーディアンなのでは――と。

「いや、仮に大手企業だった場合は手が出せない。ガーディアンが対処できるのは中小企業までだろうな」

 団長はあっさりとガーディアンが止めを刺した事に関しては否定する。情報が少なすぎるし、まとめサイト等は当てに出来ない。

退却後のわずか一時間にも満たないような時間で止めを刺されるという事実も、明らかに出来過ぎている。

「何となく読めてきたな。止めを刺した人物の正体が――」

 ビスマルクは心当たりがあるらしく、ある動画を他のメンバーの前に見せた。

その人物はボロボロのマントにテンガロンハット、いかにも西部劇っぽい衣装をしているが――。

「コスプレイヤーか」

 冷静な発言をするマルスだが、彼女の武器を見た瞬間には言葉を失う。

「彼女が本来のアルストロメリアね」

 舞風まいかぜは、この人物がプロゲーマーでありコスプレイヤーのアルストロメリアだと分かった。

あの時に現れた鍵の持ち主のアルストロメリアに対し、違和感があったのはこの為なのだろう。

(思わぬ人物があらわれて、話の展開を早めているのか――?)

 瀬川は何となく話が出来過ぎている事に対しては疑問を持つが、今はSNS上の問題を解決する方が先決だろう。

炎上勢力が残した問題の数々を片づけなくては、話が終わらないだけでなく――まとめサイト勢力の勝利で終わる可能性もあるからだ。

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