15-2

 マルスがいた場所、それはARゲームフィールドなのは間違いなかった。しかし、マルスが想定していたフィールドとは若干異なる。

では、どのタイミングでこの場所へやってきたのか――。それは『事件が起きる前』だった。

(確か、あの時に記憶が曖昧になって――)

 マルスが異世界からここへやってくるタイミング、実は――予想外の所だった。

そのタイミングとは、アガートラームが発動できなかったあのタイミングである。

実は、あの時に使用していたアガートラームは蒼流の騎士が与えた物であり、その段階で記憶はあいまいだったのだ。

(今のガングートの発言で分かった。そう言う事だったのか)

 マルスが気絶し、舞風まいかぜが発見したタイミング――ここで何が起きたのかは本人にも分からない。

気絶しているので何をされていたのかも分からないのは、ごく当然だろう。

実際に舞風が取った行動、それは――ARゲームフィールドへ向かい、そこでマルスを偶然にも復活できたのだ。

ARアバターやARアーマーの具現化等が容易な草加市の環境を踏まえれば、何となく察する事は出来る。

では、マルスはどういう存在だったのか? 一体、誰がマルスを助けたのか?

 舞風はマルスを復活した後に瀬川せがわプロデューサーに接触、一連の話をしていた。

この話には興味がなかったので、流し聞きという事で詳細はあまり分からない。

ヴァーチャルアバターのアイドル化に関して売り込みをしていたと言うのは、後に聞かされた事ではある。

それは『コンテンツ・リビルド』とは無関係だったのか?

(そう言えば、自分以外は団長と接触していたな――)

 レッドカイザー、ハヤト・ナグモを初めとした鍵の持ち主、彼らは団長が中の人の蒼流の騎士と接触している。

マルスが接触したのは、まとめサイト勢力が中の人の蒼流の騎士だ。おそらく、違うのはここだろう。

(それに、まとめサイトがどうやって具現化をしたのかも気になる)

 レッドカイザー等は団長が具現化した物であり、このフィールドでしか活動できない可能性もある。

しかし、マルスは行動範囲が広い。それが違いと言えるのかもしれないが――。



 マルスが周囲を見回すと、ARゲームをプレイするゲーマーの姿も見えていた。つまり、ここはフィールドの一部と言った方が正しい。

それだけ広いエリアなのに――今まで違和感に気付かなかったのはなぜか? それもARアバターを実体化出来るフィールドが草加市限定だったのも大きいだろう。

しかし、ARゲームであれば他のエリアでも稼働している。それなのに、草加市を選んだ理由が分からない。東京都等では駄目だったのか?

『それに関しては、自分が説明する』

 マルスの目の前にCG演出のように現れたのは、舞風だった。まさかの展開と言うべきだろう。

騙していた――という様な事ではないのだが、厳密には隠していたのかもしれない。

『ガーディアンのガジェットシステムは覚えてる? そのシステムではないと、本来であれば――キャラの具現化は出来ない』

 舞風の右手に持っているメモリの形に似た鍵、これがキャラクターのデータが入った物である。

次の瞬間、彼女が鍵を変形させ――左腕のARガジェットにスキャン、その姿はマイアの姿に変化した。

「マイア? まさか――」

 マルスも目の前に姿を見せたマイアには驚きを隠せない。

しかし、しばらくして舞風はすぐに鍵を解除して元に戻る。

『つまり、中の人がいない状態の完全な形のキャラクターは、今の技術でも試作段階でロケテストが繰り返されている』

「まさか――実験をしていた?」

『間違っていないけど、そう言う話になるかな』

「今までのあれは――嘘だったのか?」

『最低でも瀬川プロデューサー、ビスマルクは本物の人間よ。それに、あなたを襲撃したまとめサイト勢力も――』

「じゃあ、ここは一体何の為に?」

 二人の話は続くが、マルスはARフィールドにこれだけの技術があった事に何かを思う。

技術が試作段階と言っていたが、ここはその技術がある場所ではないのか?

『ここは次世代型ARゲームの開発エリアと言ってもいい所。令和の時代、現実のスポーツはイースポーツに押されて劣勢となっている。それを打開する為のフィールドよ』

「イースポーツはネットでも見たが、現実のスポーツって、まさか?」

『察しがいいかな。そう言う事よ。令和の時代、覇権を取ったのはリアルではなくバーチャルだったのよ』

 舞風の衝撃的な発言を聞き、マルスは動揺したような顔をするのだが――それはすぐに笑顔に変わっていた。

一体、どういう理由で笑顔になったのか。それは単純明快だったのである。

「リアルウォーはなくなったのか――」

 現実での戦争は、個の世界でも過去にはあった。

しかし、現状は世界全体でデスゲーム禁止を宣言――今となっては、戦争と言ってもいわゆるSNS上の炎上位だったのである。

命を奪いあう様な世界は、ここに存在しない。それを確信したマルスは、今までやってきた事が無駄ではないと――。

『命を奪いあう様な時代は過去にあった。しかし、今は違う。世界は変わっていくのよ』

 舞風はマルスに面と向かって今まで隠していた事を話すのだが、これを早い段階で言えれば――どれだけ楽だったのか。

最終的にはビスマルクと言う他のSNS炎上を経験した人物の力を得るような形で、一連の事件を解決に導いたのである。

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