第15話:決着へ
まとめサイト及び便乗勢力の摘発、蒼流の騎士事件の解決、SNS炎上の鎮圧、それらは全て七月三日に達成された。
それでも解決していない問題はいくつかある。そのひとつに浮遊大陸の正体があるのだが――。
『これ以上は難しいかな――』
ハヤト・ナグモはヌァザに乗り込み、上空から浮遊大陸が現れたとされるエリアを探る。
しかし、その場所に浮遊大陸はなかった。最低でも、マルスと蒼流の騎士が戦っている間は。
「特になければ、翌日に回す必要も――」
上空以外からは
『待って。今、大陸が見え始めている』
先ほどまではなかったはずの浮遊大陸、それが今になって見え始めたのだ。
周囲をレーダーで確認するハヤトだが、周囲に不審な物体はない。遠隔操作のドローンが映像を映し出している可能性もあったが、それもないようである。
本当に浮遊大陸が姿を見せるようなファンタジーな展開があるのだろうか? 虚構と現実の線引きが曖昧になりつつあるような世界で、今更ファンタジーと言うワードで何とかなる気配はない。
「どういう事だ?」
『分からないけど、人影っぽい物も見えないし――』
瀬川の問いにハヤトは答えるが、改めて周囲を確認すると話をしている途中で人影を見つけた。
その人物がいる場所はARフィールドに加えて、浮遊大陸の真下に当たる位置でもある。
『大陸の真下に人影を見つけた。今、拡大してみる』
モニターに表示された人影を拡大し、ハヤトはその人物の正体に驚きを感じた。
何故、このタイミングでこの人物なのか――と。しかも、人影は二人になっている。
浮遊大陸の真下、そこにいたのはガングートだった。大陸の下はARフィールドなのだが、そのジャンルは先ほどまでのARバトルロイヤルとは違う物である。
そして、彼女とは別にもう一人、その場所へ現れたのは――。
「ガングート?」
「まさか、君がここに来るとは――」
ガングートの背後に現れた人物、その正体はマルスである。どうやら、マルスは別の何かを追跡中にガングートと遭遇したようだ。
それはガングートの方も同じだろう。彼女の反応は、別の人物が現れた――想定外の人物だったと言う驚きである。
「浮遊大陸? ガングートが呼びだしたのか?」
マルスが上空を見上げると、そこにはマルスの探していた七つの大陸が浮かんでいた。
鍵は全て揃っていないはずなのに、どうして大陸だけが――という疑問が浮上する。
「これはマルスの想定している大陸ではない。敢えて言うなら、瀬川が用意した大陸だ」
(瀬川プロデューサーが――?)
ガングートの一言は、マルスに新たな謎を生み出していた。自分が想定していた大陸ではない――という言い方が引っかかる。
一体、彼女は何を隠しているのか? それは今のマルスには適当な回答しか出せない為、迂闊に発言は出来なかった。
「どうやら、アレを見ていないようだな」
(アレ? 一体、何の事を――)
マルスが疑問を持ち、思い当たる物を探そうとした矢先にスマホの着信音が鳴る。
一体どういう事なのか――それを見た時に、その答えは明らかになった。
(メール? 何時の間に来ていたのか)
チェックを忘れていたメールが数通存在し、その中の一つの差出人が瀬川プロデューサーだったのである。
明らかに自分だけが見落としていた、と言うべき状況なのは間違いない。
【コンテンツ・リビルド】
メールのタイトルには、こう書かれていた。その内容は開かなくても、おおよそは察する事が可能だろう。
それでもメールをチェックしていれば、察知できたような物もいくつかはある。そのひとつにガーディアンの動きもあった。
実際、彼らが偽の蒼流の騎士を摘発、SNS炎上勢力やバズり目的のコンテンツ炎上を起こした犯人も捕まえられたのである。
それ以外にもサイトURL等もあったが、注釈に参考資料と書かれていた。一体、何の為の参考なのか?
マルスは特にURLをタッチすることなく、ガングートに事情説明を求める。
「瀬川のやろうとしていたのは、ある種の便乗とも受け取られかねないし、一歩間違えればステマ認定さえされた」
ガングートはさりげなく消えかけている浮遊大陸の方を見つつ、少しさみしそうな眼をしながら話す。
そう言う風に話せばシリアス展開になる訳ではないが、あえてこう言う話肩をする。
「元々、ヴァーチャルレインボーファンタジー自体、ある種の企画書ベースと言われてもいいような物だろう」
(企画書? 確か、あのページでは二次創作企画とも書かれていたが――)
「土台の部分だけを制作し、後は作者に内容をゆだねるようなシステムだったかもしれない。対戦格闘ゲーム等のベースと同じというべきか」
「じゃあ、ヴァーチャルレインボーファンタジーの正体は――?」
正体をマルスが尋ねようとした矢先、何もないような空間から突如として現れたのは、両者ともに予想外と言える存在だった。
(ここに来て、超展開で決着という強硬手段を使うのか?)
ガングートは目の前の人物が何者なのかは理解している。あいね・シルフィードの登場するWEB小説、その魔法少女の一人だ。
劇中での名前は重要かもしれないが、今のタイミングで出てくる以上はモブキャラ扱いで処理するつもりかもしれない。
そして、その人物の能力は――ガングートも懸念している、あの能力なのは間違いないだろう。
「これが、コンテンツ・リビルドの正体?」
「違うに決まっているだろう。これが正体だとしたら、炎上商法になるのは必然――」
マルスは一連の光景を見て、コンテンツ・リビルドと正体をこれと考えるが、ガングートは即座に否定した。
明らかに第三者の介入及び炎上勢力の残党が何かをしたとしか思えない。
「瀬川! この状況を見ていたら、返事をしろ!」
ガングートは何処にいるのか分からない瀬川に向かって叫ぶ。
マルスも何処かに瀬川がいるのか――と見回すが、そこに彼の姿はなかった。
ガングートの叫びからしばらくして、突如として何かが落ちたかのような空間になり、フィールドの正体が明らかになったのである。
この場所の正体、それは草加市のARゲームフィールド。学校の体育館を思わせるような広さの空間にはマルスと――。
「これが正解と言うのか? どう考えても、これは本当の意味でもゲームじゃないか」
マルスの目の前にいる男性、ガーディアンの服装ではなく――明らかに蒼流の騎士だ。彼の叫びはマルスにも聞こえている。
そして、彼が団長だと言う事も把握したのだが、この場所には二人しかいない。先ほどまではガングートもいたのに。
『その通り。この空間はゲーム空間、それもある作品上の草加市をそのまま原寸大で再現したゲーム空間だ』
声の主は――ガングートだったのだが、彼女の姿は全く見えない。一体、何処から喋っているのか?
そして、数分後には再びフィールドが元に戻り――ガングートの姿も復元された。
「マルス、君が救うべき世界は――SNSの闇、その物だ。これは、その一部にしか過ぎない」
ようやく、マルスはガングートの言っている事を理解できた。自分があの世界から召喚された理由も――。
「君はかつて、二次創作のメアリー・スーとして――様々な二次創作が生み出され、時には――」
これ以降の言葉、はっきりとは聞こえてはこなかったが大体は察していた。
自分が元々は別の作品の主人公であり、それを題材とした二次創作で様々な世界で活躍していた事も。
それらの創作でのネガティブな意見や炎上等と言った物が具現化し、蒼流の騎士が召喚したと言う事も理解できた。
SNSを炎上させ、完全支配するにはマルスのような二次創作メアリー・スーは好都合だったのである。
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