14-7

 ARフィールドに姿を見せたマルス、その姿を見たギャラリーは驚く者もいる。

その一方で、また何かが起こるのでは――と考える人物もいるのは当然だろう。SNS上でも、彼の存在が一連の事件と無関係と言えないからだ。

「マルス――どうして、ここに?」

 あいね・シルフィードもこの場所を教えた訳ではないが、マルスの方はどのような経緯で知る事になったのかを教える事はない。

(あの蒼流の騎士を倒しても、全ては終わらないかもしれない――)

 マルスは目の前の蒼流の騎士が誰であろうと、それに便乗して炎上させようとする勢力等がいる限りは全てが終わらないだろう。

舞風まいかぜからも、この件に関しては釘を刺されている。SNS炎上を根絶させる事は不可能ではないが、法律で拘束するしか手段がない。

しかし、それはあくまでも最終手段であり――条例や法律のようなレベルで禁止にするのは、いわゆる禁じ手とさえ明言した。

(どうして、彼女は禁じ手を使ってまで炎上勢力根絶をしないのか)

 マルスは舞風が炎上勢力に対して何かしらの敵意を持っているのであれば、手段を選ばずに根絶させるのも一つの手だとも提案した事がある。

それでも舞風は条例や法律で禁止にしても、根本的な部分が解決する訳ではないのだ。そうしたものがあっても、ルールを破る者は必ずいるのだから。

瀬川せがわプロデューサーとの情報交換後、舞風はこうも言っていた――蒼流の騎士を操る黒幕がいて、それを倒しても全てが終わるとは限らない。

何故、このような事を言ったのかは分からなかったが、今になってようやくわかったような気がした。

(戦いは繰り返される。それがどのような形であれ、敵と味方に別れたバトルは何処かで行われる――)

 和解という道もあるはずなのだが、向こうはそれを選ばない。徹底抗戦を選び、何としても炎上させようとしたのである。

既に一連の炎上勢力はガーディアン等が摘発しているはずなので、もしかすると目の前にいる蒼流の騎士の正体は――かもしれないが。

『マルス、お前とは一対一で勝負がしたい』

 蒼流の騎士が提案をするが、明らかにフラグと思われたが――マルスはそれに応じる事にした。

ゲーム自体もシステムをよく見ると、一対一モードに設定されている。フィールドが話の設定なのかは定かではない。

「こちらは構わない」

 マルスからの同意も得られた。これで向こうは――と蒼流の騎士は考える。

これが作戦通りなのかは定かではないのだが、必ずマルスに勝てると言う自信につながる訳でもない。しかし、この段階で気付かなかった。

自分が絶対的な勝利者として他の勢力を炎上させ、自分の推しをゴリ押しする――それが超有名アイドル商法時代に起きた炎上事件と同じであり、明らかなフラグを立てた事に。



 マルスと蒼流の騎士の一騎討ち、それが始まろうとしていた時には盛り上がるどころか――逆にギャラリーは、ある懸念を持った。

「この状況だと、あるすは勝てないだろうな」

「蒼流の騎士の登場作品とマルスの登場作品は違う。おそらく、勝つのは――」

「WEB小説の人気的には蒼流の騎士の方が上、つまり人気作品の方が勝つだろうな」

「あの二次創作小説サイトでも人気があったような気がする」

「ソレはお互い様だろう。しかし、あのサイトではあの有名漫画作品等の方が上だ。それに、実在する歌い手題材の――」

「それを言えば、マルスだって二次創作ではメアリー・スーのような存在になっている作品が多い。勝つのはマルスなのでは?」

 周囲のギャラリーは蒼流の騎士が圧倒すると考えているようだが、中にはマルスが勝つと発言する人物もいた。

しかし、ある存在を懸念している人物もいた。その人物は明らかに蒼流の騎士の発言が小物っぽいと考え、負けフラグと立てているとまで断言する。

「それはないだろう」

「バズり狙いな発言は止めた方がいいぞ」

 その人物に対し、ギャラリーは塩対応をするが――それでも、この人物は蒼流の騎士が負けると信じていた。

正直な感想を述べているのに、どうして周囲はバズり狙い等と言及するのだろうか?

(始まったか――ある意味でも全ての運命を決める戦いが)

 バトルが始まると、先制攻撃を仕掛けたのはマルスの方だった。ギャラリーには、さりげなく黒のシュヴァリエの姿も。

白銀の鎧、アガートラームを装着して本気モードの彼は――ワンパン攻撃で一気に蒼流の騎士のライフを減らしたのである。

これには周囲のギャラリーも言葉を失う。ギャラリーの中には、有名プロゲーマーの姿もあったらしいが――。

「マルスの本気、そう言う事か」

 しばらくしてライブの行われている場所へと向かい、そのフィールド近くに姿を見せたのはビスマルクである。

彼女も結局は気になってフィールドへ向かった事になるだろうか。それに加え、ガングートの姿もあった。

『まさか、ここまでやるとは――』

 次に蒼流の騎士は何処からか別のガジェットを取り出し、プログラムを走らせる。

次の瞬間には、電磁波のような物が感知され、一時的にスマホ等が使用不能になった。

一体、蒼流の騎士はどのような手品を使ったのか?



 ハヤト・ナグモが合流する為に目的地へ到着した頃、そこには既にバトルが終わった事を告げるリザルト表示があった。

勝利したのは――マルスである。圧倒的な展開と言うよりは、自爆と言えるような結果で――マルスとしては不完全燃焼と言うべきか。

「一体、何が起こったのか――」

 ハヤトがフィールドに現れた時には、ヌァザは別エリアに置いていった訳ではなく何処かへと消えている。いわゆる異空間への格納かもしれない。

フィールドでは、既に倒れている蒼流の騎士に対して話をしている人物がいるのだが――その人物は思わぬ人物だった。

「お前達も使えたのか、あのシステムを」

 ガーディアンの戦闘服ではなく、蒼流の騎士の姿としての団長がおり、彼が先ほどマルスが倒した蒼流の騎士に何かを聞きだしている。

この様子は別の意味でもゲシュタルト崩壊を起こしかねない。

「システム自体はフリーで拡散していた物だ。それをベースに調整したに過ぎない」

「フリーで拡散? それこそあり得ないだろう。あのプログラムは――」

「事実は事実だ。WEB小説サイトにアップされていた物を流用したのだ」

「WEB小説サイト? ソレはどういう事だ?」

 団長の方は、更に追求しようと考えたのだが――その時には電磁波の件でガーディアンが駆けつけていた。

つまり、最終的に団長は話を聞けなかった事になる。

(WEB小説サイトか。一応、調べるだけ調べてみるか)

 情報がゼロだった訳でもないので、団長は別のエリアでスマホのブラウザを起動して情報を調べ始めた。

検索ワードはWEB小説サイト、と考えたがソレでは無数のサイトが見つかるだろう。それに――埒があかない。



 マルス自身は不完全燃焼と言う訳ではなかった。リザルトで勝利表示もあるので、勝負は勝負なのだろう。

「やっぱり、あれは偽者か」

 先ほどの相手が蒼流の騎士の偽者だと言うのは、あのワンパンで何となく分かっていた。

理由は――ARバトルロイヤルの実力だろう。向こうは明らかに対応できそうなワンパターン攻撃を見きれなかったのだ。

上級者等であれば、あの攻撃は回避できて当たり前とは言わないが、無対策で当たるなんて考えられないからである。

(偽者だとして――?)

 遠目からガーディアンに連行される偽蒼流の騎士を見て、見覚えのないような顔の人物だと分かった。

まとめサイト勢力なのかどうかは分からないが、プロゲーマーであれば顔は容易に分かってしまう。

やはり、まとめサイト勢力やバズり狙いの人物とみて間違いないだろうか。

「あれで全てが終われば――」

 瀬川の立ち上げた作戦以前に蒼流の騎士の偽者を撃破し、全ては解決へと進むだろう。

しかし、これで本当に解決したのかと言われると――定かではない。

「障害がなくなった以上、次に――」

 次に何をするべきなのか、とふと考えても即座に浮かばない。

いっそのこと、舞風のアレに付き合うべきなのか――と思ったが、まだ何かが残っている事に気付く。

あの時の光景――ここへ飛ばされる前に見た光景の正体である。自分は本当に、あの作品の登場人物だったのか?

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