14-6
ゲーセンのセンターモニター、そこに映し出されていたのはあいね・シルフィードと蒼流の騎士のバトルだったのである。
これには周囲のギャラリーも自然と盛り上がり、ビスマルクとマルスは言葉を失っていた。
「蒼流の騎士――またしても、同じ事を繰り返すのか」
今のビスマルクにとって、蒼流の騎士の正体が仮にまとめサイト勢力だったとしても、あの団長だとしても許す事は出来ない。
過去に自分が味わったSNS炎上の悲劇――自分のプレイしていたゲームで起こされた悲劇の炎上を。
最終的に炎上が意図的なもので、明らかな広告会社や芸能事務所を主導とした草加市乗っ取り計画だとまとめサイト等で叩かされる事になったが――。
(あれが、さっきと同じ人物なのか――)
マルスは隣にいたビスマルクの表情を見て、先ほどまでゲームを楽しんでいた人物と同じとは思えないと考える。
しかし、それは――今までの自分にも該当していた。七つの鍵を集め、願いをかなえようとしていた――あの時の自分と。
それこそまとめサイト勢力に踊らされているだけなのでは――と言えるような事である。
今の自分は敵を倒す為だけに動いていたのではないか、そう感じさせる状況だったのかもしれない。
(ゲームをプレイしていくにつれて環境が変化するのは避けられないだろう。それでも――)
マルスは、ある覚悟を決めてビスマルクに声をかけることなく――ライブ中継中のエリアへと向かう。
エリア表示を見ると、このゲーセンからは距離が離れていないので走っても間に合うはずだ。
「嫌われ者を演じるのは得意ではなかったのだが――」
いつの間にかマルスがいなくなっていた事に、ビスマルクはため息交じりにつぶやく。
それでも、自分で回答や模範例を出しては彼の為にもならないだろう。
リズムゲームでも他のゲームのような攻略本を片手と言うプレイ自体は存在しない。
自分で答えを見つけ、それを積み重ねていかなくてはいけないのだ。マルスも、実際にリズムゲームをプレイしていた以上――分かるはずだろう。
あのプロジェクトのメールを七つの鍵の所有者に送信したのは、さりげなくヴァーチャルレインボーファンタジーの運営への接触失敗してからだった。
実際にサイトのURLを見ても、アーカイブ的なサイト構成であり、リンクのいくつかは存在しないURLだったのである。
登場人物も、本来想定している人物とも異なり、まるでプロットやたたき台のようなサイトが放置されているとも言えるだろう。
「まさか、運営その物が――」
会社ではなく、草加駅の方向へ走っていた
車などで移動した方が早いかもしれないが、ARフィールドは駐車場がない可能性もある。
それに加えてあの対戦カードである以上、近隣の駐車場も埋まっているだろう。車で行くだけ、間に合わないし無駄に終わる可能性だって否定できない。
『プロデューサー、こっちは先に向かいます。ヌァザならば――渋滞も影響ありませんし』
久々に巨大ロボットのヌァザに乗り込み、ハヤト・ナグモは目的地へと急ぐ。
ヌァザもARメット等でなければ見る事は出来ないので、こう言う時には役に立つのかもしれない。
「分かった。何かあったら、下手にこちらから手を出すのは避けてくれ」
『了解しました。あいねともコンタクトできれば――』
ハヤトの方は即座に目的地へと向かい、それを瀬川が追いかける構図になった。
距離的には車で五分位のフィールドなので、徒歩でも何とかなりそうだが。
「あれ、ヌァザでは?」
「そんな馬鹿な。あの巨大ロボットが空を飛んでいるはずが――」
ARメットを装着した他のプレイヤーが、ふと空を見上げると――そこにはヌァザが確認出来る。
今までは確認出来なかったはずなのに、まさかの展開に情報を拡散しようとするのだが、何故かサイトエラーで拡散は出来なかった。
例の動画を目撃する数分前、瀬川はハヤトに計画の説明をしていた。メールで送信予定の計画に関してである。
この時は会社のビル一階に二人はいたのだが、その目的はある人物との接触だった。
しかし、その人物が来る事は――遂になかったのである。まとめサイト勢力等の罠だったのかは分からない。
「あの計画は目的が別にある。作戦名は『コンテンツ・リビルド』としているが」
SNS炎上からコンテンツを守る為の計画、コンテンツ・リビルド――瀬川としては、最後の切り札にも近い物。
ターゲットは蒼流の騎士、彼の暴走を止める為の計画なのだが、まさか向こうから動く事になろうとは。
もしかすると、あの蒼流の騎士は完全な第三者によるSNS炎上を目当てとした存在と言う事も否定できないが。
「あのコラボイベント自体、炎上勢力にこちらの行動を悟らせない意図がある」
瀬川はハヤトに今回の作戦を説明していた。とにかく、蒼流の騎士を元凶とした一連の事件に決着を付けないと。
エンドレスで続くかもしれないSNS炎上、コンテンツ市場においては害悪とも言えるような存在との戦いに決着を付けるべきと考える。
「メールの内容自体、意味があるのですか?」
「作戦内容を簡単に書けば、仮にセキュリティ等の関係でメールが流出した場合、作戦を悟られる」
「そこまでやって、プロデューサーは何を――」
「SNS炎上勢力も何か考えているのであれば、逆に利用してしまおうと言う事だ」
二人のやり取りは他にもあったが、それは雑談レベルの物で――作戦にあまり関係はない。
そうした通信も流出すると考えており、更に言えば虚構のフェイクニュースで炎上させようと言う存在に邪魔をさせない目的もあるようだ。
ハヤトよりもいち早くあいねのいるフィールドへ合流出来た人物がいる。それは、何とマルスだった。
彼は軽装鎧の姿であいねの前に現れ、彼女をサポートしようとしたが――バトルの方は既に終了した後だったのである。
そのリザルトは、蒼流の騎士の勝利を表示していた。周囲のギャラリーは歓声を上げているのみで、疑問を持つ者はゼロに近い。
『マルス、またお前が邪魔をするのか?』
蒼流の騎士の一言を聞き、何かのデジャブを感じた。この声は団長ではない。
明らかに、あの時聞いた声である。つまり、この人物の正体は――。
「目の前の蒼流の騎士、まさか――?」
『この反応は――!?』
マルスのリアクションは、想定外の物だったかもしれない。ボイスチェンジャーを使ったのが裏目に出たか?
それとも、あいねに勝利すると言うシナリオがまずかったのか? この人物が把握する時間すら与えずに――。
「待って! 今はバトル前。登録をしないと――」
あいねが叫ぶのを聞いて、マルスの手は止まった。先ほど、自分でも反省していたはずなのに。
ビスマルクが見せた表情、あの時の表情は明らかに最近の自分と似たような表情だった。
同じ事は繰り返さない――そう決めたはず。蒼流の騎士、自分に鍵を託した人物と、こう言う形で戦う事になるとは。
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