11-2

 目の前にあった光景、それをデンドロビウムが正常に認識するまで――若干のタイムラグがあったのは言うまでもない。

コンビニを抜けたARゲーム屋外フィールド、そこではARバトルロイヤルが行われており、ギャラリーも大勢集まっている。

それが、あのコンビニにおける光景だったのかは定かではない。それに加えて、草加市民の反応もこれが影響している者ではないのは明らかだろう。

一体、何が草加市民にあれだけの反応をさせているのか? 既にバトルの方は終わっており、結果の方も出ていた。

【あのリザルト、信じられるか?】

【まさかの逆転劇だな】

【ラスト三〇秒の攻防は、圧倒的だ】

【あれこそが本来のARゲームで顧客が望んでいた物か】

【今までのプレイが嘘みたいに変化していたな】

 つぶやきのまとめでも衝撃度合いのレベルが高い事を物語る。

下手に管理人が煽り等の捏造メッセージを入れなくても――と言う規模だ。

(あれがバトルなのか――)

 リザルトがセンターモニターに表示されており、それを見たデンドロビウムも言葉を失う。

周囲のギャラリーも想定外の展開だっただけに、静かと言うべきなのだろうか。

「まさかの展開と言うべきだろう」

 デンドロビウムの隣にいたのは、彼女にとっては敵とも言える人物――瀬川せがわプロデューサーだ。

彼の姿は何時もの背広ではなく、私服なのでプライベートでARフィールドに来たと思われる。

「瀬川、何を見に来たというのだ?」

 唖然としているデンドロビウムを横に、瀬川は右手に持っていたコンビニの袋からペットボトルのスポーツドリンクを取り出す。

それの蓋をあけ、デンドロビウムに遠慮をすることなく飲み始めるが、彼の視線はセンターモニターのリザルトを見ていた。

「噂に聞く、アルストロメリアがどういう人物か――それを確認する為に来た」

 結果はアルストロメリアが逆転勝利と言う様な結果である。

普通に上級者やプロゲーマーを倒しただけでは、この盛り上がりは表現できない。

明らかに倒したのは――プロゲーマー以上に有名な、それこそバーチャルアバターや動画投稿者クラスだ。



 フィールドが解除され、SFチックなビル街は元の草加市へと変化する。

目の前の光景を、彼は受け止める事が出来ずにいた。前半はリードしていたはずなのに――。

その人物とは、何と七つの鍵の持ち主であるマルスだった。彼も油断をしていた訳ではないだろう。

 前半は確かに有利だったのだが――彼にとって、わずかな揺らぎが負けフラグを立ててしまったのだ。

マルスの使用している武器やスキルも、アルストロメリアと比べると圧倒している気配はする。

その状況下なのに、彼は負けてしまったのだ。周囲もアルストロメリアが起こした大番狂わせには驚く他にない。

【どういう事だ?】

【一体、何が起きたのか予想出来ない】

【マルスは確かに有利だった。しかし、後半は動作に若干のタイミングミスがあった】

【二人は何かを話しているような気配だったが――?】

【チャットログ等はさすがにないだろう。まとめサイトでも内容は歪められているかもしれない】

【全ては本人たちにしか分からないと言う事か】

 一連の動画を遅れて視聴した者たちも、この光景には衝撃を受ける。

リアルタイムで観戦したかったと思う人物もいるだろう。二度視聴している視聴者でも、状況を把握できない。

それ位には――マルスが見せた一瞬の隙は、アルストロメリアにとっての勝利フラグだった。

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