第11話:それは激戦区のような

 マルスは改めて舞風まいかぜに問いかける。しかし、彼女はそれどころじゃない表情でスルーした訳ではない。

「それを今更確かめても、意味はないでしょう? SNS炎上勢力が行おうとしている事、それを止めるのが重要なのよ」

 舞風にマルスがぶつけたのは、以前から彼女が言及していたバーチャルアイドル計画だった。

何故、このタイミングに再確認をするのかが舞風にも分かりかねたのだが――。

(今更と言われても――本当に今更だが)

 マルスは今更とは自覚しつつも、あの言葉の真意が気になっていた。

『具体的な理由を言う。七つの鍵を集めても願いは叶えられない。あれは全て――ゲームだ』

 言葉の内容としてはマルスの動揺を誘う様な物ではないのだろうが、その一言はマルスに深く刺さっている。

一連のゲームであるという発言も、演出としての物であるとは否定できないが――。

マルスとしては、この言葉に対する答えが聞きたかったのである。嘘ならば嘘だと言ってほしかったし、事実であればそうだと言ってほしかった。

「少し出かけてくる」

 マルスとしては単独で出かけるのは、あの時と似ているのだが――明確に場所を告げていた全開とは違い、今回は特に指定された場所は告げていない。

単純に「出かけてくる」だけなので、詳細な場所は舞風にも告げていない。



 七月一日、SNS上でも様々な情報が拡散している中で――大きな動きがあったのである。

まるで、それは激戦区のような様子だったのは間違いない。草加市内で緊張した状態ではないのだが、分かる人物には周囲の様子がおかしい事は分かっていた。

「何かを警戒しているのは間違いないか。ガーディアンとしても心配だが」

 周囲の視線は明らかに自分に向けられた者ではないのは分かっているが、ここ数日前の様子よりも位ムードなのをデンドロビウムは我慢できない。

まるでバブル崩壊で不景気になった昭和の終わりから平成の始まり辺りを連想させる位の空気が、草加市に漂っていた。

観光客に関しては、そこまで暗いムードではないのだが――草加市の市民は明らかに敵意を観光客等に向けている。

 コンビニの入り口を通り過ぎたデンドロビウムは、ある違和感を持つ。ゴミ箱が非常にきれいなのだ。

観光客のマナーやモラル問題等も聖地巡礼では賛否両論であり、作品によっては炎上案件とも言える。

しかし、コンビニのゴミ箱がきれいなのは特に問題となるような物ではないだろう。観光客の客足が鈍い訳ではないのは、店内を見れば明らかである。

数十人程の客足がある中で、コンビニのゴミ箱がきれいなのを、どうしておかしいと思うのか? ソレには別の理由もあった。

(SNS炎上勢力を恐れて本来の草加市へ来る客層が減ったのか?)

 観光客自体は特に減った訳ではない。それは谷塚駅や草加駅の様子を見れば一目瞭然だ。

デンドロビウムが問題にしていたのは、草加市に来る客層の変化だろう。

まるで、二次創作サイトでAと言う作品の二次創作小説ばかりが上位独占だった時期から、Bと言う作品に何の前触れもなく入れ替わる状態――。

(市民が警戒しているのは、どちらになるのか?)

 Aという作品のファンなのか、もしくはBと言う作品のファンなのか――草加市民が警戒するのは、そのどちらかなのは間違いない。

一体、草加市に何が起こったというのだろうか? それをデンドロビウム自身気付くのは、コンビニを通り過ぎた、その先にあった。

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