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「貴様は、まさか黒の――」

 気絶した人物の断末魔とも言うべき台詞、気絶しただけだろう。倒れた後には、別の人物が立っている。

それを見て、周囲も明らかに衝撃を受けている様子だった。

「まさか、あれが黒のシュヴァリエか」

「既に同じネームのプレイヤーは数人いる。彼も同じでは?」

「そうじゃない。あれは、プレイヤーネームとしての黒のシュヴァリエではない」

「揃いも揃って、あれをマルスの一件と同じ本物とでも言うのか?」

 本物の定義はさておき、目の前にいる人物はコスプレイヤーと言う訳でもなかった。

明らかに黒のシュヴァリエ、本人に近い者と言うべきか。

既に野次馬が若干増えつつあり、バスの運行にも影響を与えようとしている。これだけは回避したいのが、ガーディアンの反応だろう。

駅等に設置されている監視カメラ、飛行中の監視ドローンから届いた映像を見てガーディアンが動けば、自分達も捕まりかねない。

危険を察した一部の野次馬はバス停辺りからは離れる形で様子を見る事にしたり、更に一部は別の動画サイト経由でアップされる事を踏まえてこの場からは撤退する。



 マルスの方は様子を見る形で武器を展開はしない。向こうも武器を持っていないアバターを襲う事はないだろう。

それに、マルスは何となく分かっていた。彼が本物である理由は別にもある、と。

「お前達が噂のマルスか。ならば、ひとつ手合わせ願おうか」

 まさかの発言に、マルスは理解できなかった。何故、このような展開になるのか、と。

どう考えてもまとめサイトを倒し、次はお前達――となるような場面ではないはずなのに。

「どうして戦うのか?」

「試してみたい。お前達がSNSで言われている程の実力者か――」

 マルスの疑問にシュヴァリエは答えるが、それを理由にするには弱いだろう。

どう考えても、それはまとめサイトに踊らされているだけに過ぎないからだ。

(さっき、自分が倒したのがまとめサイトだって気付いていないの?)

 舞風まいかぜは現在の状況を見て、シュヴァリエが何も理解していない事に気づいていた。

まとめサイトを倒しておきながら、あの発言は矛盾が多い。それとも、最初からマルス狙いなのか?

「SNSの方は持ちあげすぎだと思わないのか? お前もフェイクニュースに釣られて――」

 マルスが何かを言おうとしたのだが、それを遮るようにシュヴァリエは右手に持っている武器で先手必勝と言わんばかりに振り下ろす。

その形状を見て、明らかに危険だと察したマルスは左腕に白銀の籠手『アガートラーム』を装着し、それを何の苦労もなく受け止めた。

(あの反応速度――ネットの発言は嘘だと言う事だけは本当のようだな)

 予想以上とも言える反応は、シュヴァリエにSNSの情報が嘘である事を認識させた。

どうやら、マルスの実力が低いと感じていたらしい。それでも、彼がバトルその物を止めようとはしなかった。

そのバトルを止めたのは予想外の物だったのである。しばらくして、周囲に警報音にも似たようなサイレンが鳴り響く。

しかし、そのサイレンで草加市民がこちらを振り向く訳ではない。どうやら、ARガジェット経由で流れている警告音のようだ。

ARゲームプレイヤー限定の警告音と言うと、発生理由は一つしかない。それはARゲームフィールド外でのバトル行為である。



 数分後、警告音を聞いてやってきたのはガーディアンの男性である。特徴的な防護服に、SFで見かけそうなアーマーを装備していた。

既に武器も所持している関係上、戦闘行為と認識してやってきたように見えるが――彼の目的は別にある。

「お前がマルスだな」

「一体、貴様は何者だ? ガーディアンが何の目的で――」

「確かにガーディアンと言うのは一理あるが、これを見て同じ事が言えるかな?」

 マルスの問いに対し、男性はポケットから見覚えのあるキーを取り出し、それを強く握る事でキーを変形させた。

その形状を見て、まさか――と思ったのはマルスの方である。最終的に男性がキーを→腕のARガジェットに認識させ、ARアバターを装着した辺りで正体を察した。

「彼が、蒼流の騎士――?」

 舞風は目の前の光景に驚きを隠せなかった。彼の正体こそ、蒼流の騎士だったのである。

あの映像を送ってきた人物であり、あの動画の声の主でもあった。しかし、マルスにとっては聞き慣れない声であるのは事実だろう。

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