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 谷塚駅周辺に響き渡る警告音は、間違いなく何かが起きる前触れだろう。しかし、その音は一般市民に聞こえないレベルのシステムが使われている。

それが正式に公表された形跡はなく、数少ない企業機密と言える箇所なのかもしれない。メタ的に言えば『ファンタジー要素』なのだろうか。

ARガジェットのシステムも本来は機密要素が多く、下手に軍事方面へ転用されないようなセキュリティを施した上で運用していたと言う。

それだけ危険と隣合わせだった草加市の聖地巡礼計画、これを知れば一般市民からも反発は避けられない。

「確かにガーディアンと言うのは一理あるが、これを見て同じ事が言えるかな?」

 マルスと舞風まいかぜの前に現れた人物、それはガーディアンの男性だった。

しかし、所持しているキーをARガジェットに認識させた事でARアーマーが展開され、その形状には見覚えがあったのである。

そう、彼こそが一連の事件の黒幕ともSNS上で言及されている蒼流の騎士だ。

「彼が、蒼流の騎士――?」

 舞風も目の前の現実が受け入れられないような驚きを見せ、マルスの反応は言うまでもない。

あの声は動画における声の主と同じと言う事を意味しているのだが、マルスの想定している蒼流の騎士とは声が違う。

「その通りでもあるが、そうでもないと言える。舞風、お前はどう思う?」

 まさかの質問に対し、舞風は対応しきれない。どういう風に受け取るべきかで反応が変わる可能性もあるからだ。

しかし、マルスは彼の言う『そうでもない』に対して――。

「お前は自分を呼びだした蒼流の騎士なのか?」

「ソレは違うな。だからこその――と言う事だ」

 目の前の蒼流の騎士はマルスを呼びだした事を否定する。一体、これはどういう事なのか?

しかし、彼は全てを語ることなく右手で指を鳴らし、他のガーディアンに指示を送った。

ガーディアンが動き、捕まえたのはまとめサイト勢力の人物――黒のシュヴァリエが気絶させた人物である。

「黒のシュヴァリエ、君には感謝しておこう。この連中は、自分達が関与しないコンテンツを問答無用に炎上させ、評判を落とす――」

 蒼流の騎士が黒のシュヴァリエのいる方角を向くのだが――既にシュヴァリエは姿を消していた。別の場所へ向かったと言うべきなのか?

その後、いないのを確認して視線は舞風とマルスのいる方角に戻す。彼の言及するのはまとめサイト勢力だが、マルスは更に別物だと考えている。

「彼らのやっている事は、単純にSNS上でバズる事だけ、目立ちたいだけのフラッシュモブに過ぎない。だからこそ――」

「今は、君とSNSのモラル崩壊やマナーのあり方を議論している余裕はない」

 マルスの方は違法ダウンロードや著作権侵害、二次創作マナーの問題を議論したいのではない。

蒼流の騎士に聞きたいのは、彼が何をしようとしているのか、である。

「あの勢力を放置してもいいと言うのか? 蒼流の騎士――」

「放置しても大規模テロに発展しなければ――と言う話か?」

「そこまで発展してからでないと、ガーディアンは動かないのか!」

「ガーディアンとしては、啓発CM等でも対処できないような勢力が出たからこそ生まれたと言ってもいい」

(モラル崩壊やあの発言、マルスの本当の原作って一体――)

 マルスの一言を聞き、舞風はマルスの登場した作品が本当は別の作品なのではないか、と考え始めていた。

マルスと言う名前が様々な作品で使われている為、それこそガングートの事例みたいに作品を間違えたと言えなくもない。

実際、彼を呼びだした蒼流の騎士と目の前にいる蒼流の騎士は別人、最初の人物の目的をそのまま引き継いだとも考えにくいのだが――。



 蒼流の騎士も姿を消し、谷塚駅近辺で残っているのはマルスと舞風、一部の野次馬位だった。

近くに交番があるのに警察が来ないのは、ARゲーム案件と言う事もあるのかもしれない。警察では介入不能を意味しているのだろう。

ソレ自体が色々な意味でも異例だらけであり、これも一種の『ファンタジー』と受け取られる状況と言える。

「マルス、貴方に聞きたい事があるわ。本当に、あのファンタジーゲームのマルスなの?」

「それは違うかもしれない。確かに、あの作品のマルスなのは事実かもしれない――」

 マルスが真剣な目つきに変化し、舞風に説明を始めるのだが、最初からメタだらけで思考が追いつかない。

瀬川せがわプロデューサーは確かに自分の作品と明言したのは間違いないだろう。しかし、あの作品はメディアミックスされている。

既に出ているだけでも、ソーシャルゲーム版、格闘ゲーム版、アニメ版、漫画版、小説版――非常に多いのが特徴だ。

「まさか、ココの段階で振り出しに戻るなんて」

 舞風も自転車に乗り、目的の場所に向かう事にする。今は考えても無駄足に終わる可能性だって否定できない。

だからこそ、目の前で起こった事を踏まえて考えをやり直さないといけないのだろう。

全ては、自分がやろうとしているバーチャルアイドル計画の為にも――その障害となる炎上勢力は消滅させないといけないのだから。

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